「スワンソング」トッド・スティーブンス監督©Tim Kaltenecker

「スワンソング」トッド・スティーブンス監督©Tim Kaltenecker

2022.8.28

インタビュー:クィアの先輩にリスペクトを 「スワンソング」トッド・スティーブンス監督

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鈴木隆

鈴木隆

「スワンソング」は、実在したゲイのヘアメークドレッサー「ミスター・パット」ことパトリック・ピッツェンバーガーをモデルにした、小品ながらユーモアと哀感が交差するドラマだ。自身もゲイであるトッド・スティーブンス監督は「ありのままに生きることは、すなわち自由であり、自分を解放してくれる」と話した。


 

親友に死に化粧を施すゲイのドレッサー

パット(ウド・キアー)は最愛のパートナーだったデビッドを早くにエイズで亡くし、老人ホームで暮らしていた。ある日、パットのもとに弁護士がやってきて、町の名士で元顧客の親友、リタが亡くなり、彼女の遺言で死に化粧を施してほしいと依頼される。パットはリタのもとへ向かいながら、忘れていた仕事への情熱や、わだかまりを残したまま他界したリタへの感情を呼び起こす。
 
スティーブンス監督は1984年、17歳の時に、生まれ育った町であるオハイオ州サンダスキーのゲイバーでパットが踊っているのを見て衝撃を受ける。
 
「何よりいでたちが町の人と全然違っていた。目立たないとか、なじむ服を着ることが暗黙の了解になっている町だった。ちょっと目立とうとすればあだ名を付けられたり、いじめられたりするところなのに、パットはそんなルールを破っていた。他人にどう思われようと構わず『僕はこうだけど何か?』というふうに誇りを持って生きていた」

 

白黒の町で出会ったテクニカラーの存在

スティーブンス監督は「町全体が白黒なら、パットだけはカラーの存在だった」と振り返る。「僕も希望を抱くことができた。こういう生き方をしてもいいんだと、ロールモデル的存在になってくれた。人生をテクニカラーで生きていきたいと感じるようになった」
 
映画化にあたってはさらに深い思いがあった。「この世代のゲイに焦点をあてたかった。最高のゲイ・ジェネレーションで、彼らこそゲイ・コミュニティーを作った人たち。勇気を持って自分の有りのままの姿をさらけ出した」。サンダスキーのような田舎町でも、ヘアドレッサーや花屋、インテリアデコレーターなどの職業に就いていたという。
 
「道を切り開いてくれたクィア(性的マイノリティー)の先輩たちに、リスペクトをささげたかった。彼らのおかげで世界が変わってきたのだから」


 

田舎町にだってゲイは存在する

映画のゲイは大都会で葛藤するというイメージが強いが、この作品は小さな田舎町が舞台。スティーブンス監督の故郷だという。
 
「脚本家がよく言う『知っていることについて書きなさい』をそのまま実行に移した。両親も住んでいるし、僕も今もつながりがある。焦点があてられなかった部分を描こうとした」
 
こだわったのは、地元だからという理由だけではなかった。「ゲイがみんなマンハッタンに住んでいるわけではない。普遍性を持たせられるし、多くの共感を得られるとも考えた」。田舎町にもゲイは存在するのだ。「自分の髪を30年間切ってきた人が実はゲイだったとか、生活圏内にいるはず。そう気付いたら、ゲイやクィアへの考え方が変わっていくと思う。オープンに接することで世の中は変わる」
 

ビンテージレンズで時代を再現

老人ホーム、死に化粧、亡き親友とのわだかまり……と並べると暗い映画とイメージされがちだが、トーンはむしろ明るい。パットはコミカルで人なつっこい。
 
「意識しているわけではないが、僕の映画は軽やかな中に、ひとさじの悲しみみたいなものがある。陰陽、清濁が混ざっている。ケタケタ笑う人も結構いる。明暗のバランスをとる傾向があって、憂鬱にならないよう一筋の光や希望を作っていきたいと思っている」
 
作品の色調にはかなり工夫したようだ。スーパー16ミリで撮りたかったが、予算の関係で使うことができなかったという。
 
「過去の話なので粒子の粗い感じを出したかった。色があせてきた写真のような。ただ、パットが歩みを進めるうちに、風景も活性化して鮮やかになるように撮った。色あせていたものが終盤では完全にリストアされて輝きを取り戻す。色の設定は3段階に分けて、最初のカットと最後のカットでは、色合いが全く異なっている。70年代に使われていたビンテージレンズを使用して、温かみやノスタルジックな感触を再現した」


 

帰るべき場所に向かうロードムービー

老人ホームを抜け出してから、親友の死に化粧をするまでをロードムービーの形で撮っているのも、スティーブンス監督の思い入れの一つだ。パットが旅をするうちに、心身ともに目を見張るように変化する。「ロードムービーはいかにもアメリカ的な感じがして気に入っている」。 芝刈り機に乗って旅をするデビッド・リンチ監督の「ストレイト・ストーリー」にも影響を受けたと語る。
 
「パットは死の空間から逃れて、最終的に自分が帰るべき所に帰って行く。そこには生命があり、だからこそロードムービーのスタイルにした。誰かの車に乗せてもらったり、運転したりするのもいいが、(パットは)歩いたほうが画(え)になると思った」
 
8月26日公開。

©2021 Swan Song Film LLC

ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

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