「WANDA」©1970 FOUNDATION FOR FILMMAKERS

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2022.7.07

特選掘り出し!:「WANDA」 社会の片隅でさまよう

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

アメリカン・ニューシネマ全盛の時代に、反体制でも悲劇的でもアンチヒーローでもない。愚かで投げやり、刹那(せつな)的だが、社会の片隅で危なっかしくもたくましく生き抜く女性像であり、女性を抑圧してきた社会の断面を冷ややかに映し撮った側面も見逃せない。

米ペンシルベニア州の炭鉱町に住むワンダは、離婚審問で夫の希望通り離婚。子どもも職も失い、有り金も取られる。ビールをおごってくれた男とホテルに行くが逃げられる。バーで会った傲慢な男デニスとともに行動し、言われるがままに犯罪を手伝ってしまう。

エリア・カザン監督の妻だったバーバラ・ローデンが監督、脚本、主演の伝説的な作品で、彼女の死後に評価が高まった。日本では劇場初公開。冒頭の石炭くずの山の間を小さな白い服のワンダが歩く姿を延々と映すシーンは、男に寄りかかる展開を暗示し象徴的。ワンダがなりふり構わず男を頼って逃避行を続ける姿がそのままロードムービーになった。

ただ、結末はあっけなく衝撃はない。ワンダの日常が戻っただけで、さまようことに変わりはない。1970年ベネチア国際映画祭最優秀外国映画賞。1時間43分。9日から東京・シアター・イメージフォーラム、29日から大阪・テアトル梅田。(鈴)

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