2013年11月3日高倉健文化勲章授賞式から

2013年11月3日高倉健文化勲章授賞式から

2022.5.22

不器用に戦後生き抜いた 高倉健をしのぶ

2021年生誕90周年を迎えた高倉健。
昭和・平成にわたり205本の映画に出演しました。
毎日新聞社では3回忌の2016年から約2年全国10か所で追悼特別展「高倉健」を開催しました。
その縁からひとシネマでは高倉健を次世代に語り継ぐ企画を随時掲載します。
Ken Takakura for the future generations.
神格化された高倉健より、健さんと慕われたあの姿を次世代に伝えられればと想っています。

ひとしねま

松島利行

筆者の映画評論家松島利行はひとシネマ編集長勝田友巳の二代前の毎日新聞映画担当記者。
2014年11月20日夕刊に掲載の追悼文を再掲載します。

健さんは無口な人ではない。むしろ話好きだったかもしれない。中学・高校時代は英会話部とボクシング部をつくって占領軍将校の子弟と交遊し、映画を見まくった。仲間とアメリカに密航しようと試みもした。貿易商を夢見て明治大に学び、進学で世話になった恩師の友人が顧問をしている相撲部に入ったものの、上意下達の人間関係になじめず、酒乱で野放図に暴れたりもしたが、好きな映画に目を向けて恋をして結婚を考える。この話で健さんは彼女がどんな人か語りたがらなかったけれども、松竹大船撮影所でエキストラのバイトをしていて知り合った若い女優だった。それが父親の逆鱗(げきりん)に触れて結婚は許されず、故郷を捨て再び上京して映画の道を求め、小田剛一は「高倉健」と改めて東映第2期ニューフェイスとなる。
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やくざ任俠(にんきょう)路線でスターとなったからか体育会系の硬派のイメージで語られるが、ジャズシンガーで映画でも人気だった江利チエミとの結婚にいたるまで、健さんの青春はいわゆる「戦後民主主義」の中にあっただろう。
「網走番外地」の冒頭で流れる歌声には、演歌ともいささか異なる情を切り捨てた響きがあってしびれた。健さんの出自は、北九州の炭坑と港湾労働者を仕切る遠賀川の川筋者の、作家火野葦平にも通ずる荒くれ者の暴力と仁義の世界にある。東映映画での裏切りや理不尽に耐えて死地に赴くアウトローの男の意地が、1960年代に始まる若い世代の反乱に呼応する。彼らの闘争や恋の挫折の怨念(おんねん)もスクリーンで昇華した。
おしどり夫婦と言われたチエミとの結婚生活は、彼女の母親代わりでもあった清川虹子やその仲間の女優が夜ごと家で酒盛りをするようになり、自らの酒乱を自覚して酒を断って撮影現場でもコーヒーばかり飲んでいた健さんには苦痛になる。撮影所から疲れて帰っても妻たちの酒宴を見て再び大泉の東映撮影所に戻り、撮影所の食堂に夜食にやって来た当時まだ助監督の澤井信一郎を車に乗せ、そのまま北陸まで走ったこともある。この時は数日後にハリウッドに一緒に渡った。R・アルドリッチ監督の「燃える戦場」に出た頃のことで、その後まもなく離婚する。彼は直情系というより気配りが多く繊細なのだろう。健さんを巡るゴシップには「パリでエイズのために死亡」との一部報道もあったが、その方面でもむしろ常識人だったと思う。
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任俠映画が実録路線に移行して、深作欣二監督の「仁義なき戦い」シリーズでは俊藤浩滋プロデューサーが重用する菅原文太が東映スターのトップとなった。大川博・東映社長の他界で後継者を巡って熾烈(しれつ)な争いがあり、「山口組三代目」出演の頃から与えられる出演作に疑問や不満を持ち、海外や他社作品への出演に気持ちが移った。東映の仲間だった佐藤純彌や降旗康男らの監督が他社で撮る作品に出演、また、松竹の山田洋次監督の「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」などが評判を得て、無法者の世界から世俗の庶民に回帰する。
毎日芸術賞、文化功労者、文化勲章にいたる晩年は優等生に過ぎたであろうが、戦後日本を生きる男をスクリーンに演じただけでなく、不器用でも自らがその時代を生き抜いたのである。

網走番外地

高倉健の代表的シリーズとなる「網走番外地」第1作。やくざの橘真一(高倉健)は前科5犯の権田(南原宏治)と二人一組の手錠につながれて網走刑務所に来た。ある日、山奥に作業に入るが、権田は手錠で橘とつながれたまま護送トラックから落ちて脱走。脱走途中で線路に遭遇し二人をつないでいる鎖を線路にのせ汽車に切らせようとした。しかし、権田が反動で谷間に落下。橘は保護司の妻木(丹波哲郎)とともに権田を病院に運んだ。(追悼特別展「高倉健」図録より)
「網走番外地」 Blu-ray&DVD発売中 各3,080円(税込) 販売:東映 発売:東映ビデオ 

燃える戦場 Too Late The Hero

高倉健初のハリウッド進出作品。第二次世界大戦時、南太平洋の小島で対峙する日・英米軍の工作を描く。形勢不利な英米軍はジャングルの中にある日本軍の通信所を破壊するためにローソン中尉、ハーン衛生兵を派遣した。数名の犠牲者を出したが、ジャングルの中から「投稿せよ」との米英軍に対する山口少佐(高倉健)の呼びかけがあった。動揺する隊員達。最後に山口少佐を銃殺したが、帰還できたのはハーン衛生兵のみであった。

仁義なき戦い

深作欣二監督、菅原文太主演で一世を風靡したシリーズの第1弾。義理人情の任侠路線から、殺伐とした暴力シーン、実在のヤクザの抗争を実録路線としてリアルに描いた。戦後山守組組員・広能昌三(菅原文太)の目を通した広島呉抗争を描く。

山口組三代目

日本やくざ史上最大の組織をつくりあげた山口組三代目・田岡一雄の伝記映画。徳島の寒村に生まれた田岡(高倉健)は、神戸で山口組の下っ端となりやがて二代目・山口登(丹波哲郎)に目をかけられる。広沢虎造の興行を成功させる一方、対抗組織との抗争では体を張り刑務所入りするなど、徐々に二代目の信用を得ていく。九州石政組との抗争では二代目がめった斬りにされる。田岡はこの事件を獄中で歯嚙みしながら知るのだった。(追悼特別展「高倉健」図録より)

幸福の黄色いハンカチ

山田洋次監督と初のコンビ作で、数々の映画賞を受賞した名作。北海道の雄大な自然を背景に妻との``約束``を願う男のロマンを描く。失恋した工員・欽也(武田鉄也)は中古車を買って北海道に旅行に来る。途中、網走で一人旅の娘(桃井かおり)を車に乗せた。2人は海岸で中年の島勇作(高倉健)と知り合い、一緒に旅をすることにした。勇作は網走刑務所を今日出所した男だった。そして妻(倍賞千恵子)が勇作の帰りを待っていてくれるなら、自宅の前に黄色いハンカチを下げておいてくれる、という。そして、夕張に着いた……。(追悼特別展「高倉健」図録より)
「幸福の黄色いハンカチ デジタルリマスター2010」好評発売中 DVD価格:3,080円(税込)発売・販売元:松竹
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ライター
ひとしねま

松島利行

元毎日新聞記者。映画を担当した。2018年死去。