毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2023.1.13
「モリコーネ 映画が恋した音楽家」
2020年に91歳で死去した映画音楽家エンニオ・モリコーネの足跡をたどるドキュメンタリー。長期の密着取材で本作を完成させたのは、「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ監督。2時間37分のボリュームに加え、中身の充実ぶりにも驚かされる一作だ。
作曲家ゴッフレード・ペトラッシに師事したのち、編曲者として成功を収めた青年時代。幼なじみのセルジオ・レオーネ監督と組んだ「荒野の用心棒」の音楽で一躍脚光を浴びたものの、クラシックを捨てて商業音楽に走ったことへの苦悩など、意外な真実が本人の口から語られる。天性の才能とたゆまぬ実験精神が築き上げたフィルモグラフィーは500本以上におよび、代表作のみならず「アルジェの戦い」「殺人捜査」「歓(よろこ)びの毒牙」といったマニアックな作品にも言及しているのがうれしい。クエンティン・タランティーノ、ベルナルド・ベルトルッチなど、モリコーネにゆかりある大勢の著名人が出演。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)
ここに注目
冒頭、カーペットに寝転んでストレッチする姿こそ映し出されるものの、暮らしぶりが見える場面はほぼない。仕事人としての側面にフォーカスしたドキュメンタリーゆえの満足感が得られる1本。ローランド・ジョフィ監督の「仕事中の彼はアスリートのよう」という言葉に納得。(細)