ジャスト6.5  ©Iranian Independent

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2021.1.14

特選掘り出し!:ジャスト6.5 闘いの証 麻薬王と刑事、新鋭が剛腕で

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

薬物犯罪の撲滅に燃える鬼刑事が、不屈の執念で麻薬王の逮捕に挑む。そんなプロットは「フレンチ・コネクション」などで幾度となく描かれてきたが、これはイランで製作された社会派クライムスリラー。冒頭から瞠目(どうもく)すべき見どころが連続する快作である。

まず薬物犯罪取り締まり班を率いる刑事サマド(ペイマン・モアディ)が、売人のアジトや路上生活者のたまり場を急襲する序盤のシークエンスがすごい。路地や空港などの多彩な状況下でアクション、サスペンスを自在に創出し、生々しい臨場感を注入した新鋭監督サイード・ルスタイの剛腕ぶりにド肝を抜かれる。無数の薬物中毒者が留置場ですし詰めとなる群衆シーンには、本物のジャンキーを多数起用したとか。その光景たるや、他の犯罪映画ではお目にかかれない異様さだ。もう一人の主人公、麻薬界の大物ナセル(ナビド・モハマドザデー)に視点が移る中盤以降もテンションは衰え知らず。賄賂で罪を免れようとする麻薬王の悪あがき、傲慢だが家族思いの男の壮絶な末路からも目が離せない。第32回東京国際映画祭では監督賞と男優賞を受賞。2時間11分。東京・K's cinema。大阪・第七芸術劇場(2月6日から)など順次全国で。(諭)