毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.12.02
天才ヴァイオリニストと消えた旋律
第二次世界大戦前夜のロンドン。9歳のマーティンの家に、ポーランド系ユダヤ人であるバイオリンの天才少年ドヴィドルが引き取られ、2人は時に仲たがいしながらも兄弟のように育つ。しかしドヴィドルはデビューコンサート当日に行方不明になり、35年後、マーティン(ティム・ロス)は彼を捜す旅に出る。
監督は「レッド・バイオリン」など音楽を題材にした作品で知られ、舞台の演出も手がけるフランソワ・ジラール。交錯する三つの時代と場所をバイオリンの音色がつなぐミステリーを完成させた。物語を劇的に彩るのは、ハワード・ショアの音楽と、バイオリニスト、レイ・チェン。マーティンの旅は、戦争の痛みに満ちた歴史を見つめるものへと変わっていく。ドヴィドルの選択を知った時に胸に広がったのは、個人であることと祈りをささげることは同時に成立しないのか?という思い。原題「THE SONG OF NAMES(名前たちの歌)」が、重い問いのように響く。1時間53分。東京・新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマほか。(細)
異論あり
ユダヤ人、家族、第二次世界大戦、バイオリンとくればおおよその展開は見えてくるし、過去と現在を行き来する手法もオーソドックス。ティム・ロスら実力派俳優が作劇を引っ張るが、全体に既視感が強い。ただ、終盤の演奏はまさにバイオリンがむせび泣いているようで圧巻だ。(鈴)