「ライオン・キング:ムファサ」で取材に応じた(左から)尾上右近と松田元太=提供写真

「ライオン・キング:ムファサ」で取材に応じた(左から)尾上右近と松田元太=提供写真

2024.11.27

尾上右近と松田元太が〝兄弟〟に 「ライオン・キング:ムファサ」で、夢に見たディズニー作品吹き替えに初挑戦

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

折田侑駿/Yushun Orita

折田侑駿/Yushun Orita

ディズニーの代表作「ライオン・キング」のはじまりの物語「ライオン・キング:ムファサ」が、12月20日(金)より全国劇場にて公開される。本作は「ライオン・キング」の前日譚(たん)にあたり、シンバを命がけで守った先王・ムファサと、彼の命を奪ったスカーの〝兄弟の絆〟を描いたものだ。

孤児だったムファサはどのようにしてサバンナの王になったのか。そしてスカーとの間に何があったのか。超実写プレミアム吹替版でムファサの声を演じる尾上右近と、のちにスカーとなるタカの声を演じた松田元太に、役を得たときの心境やお互いの印象などについて語ってもらった。


「夢に見たディズニー作品での仕事」、と声をそろえた2人

1994年に公開されたディズニー・アニメーション「ライオン・キング」は、世界中にファンを持つビッグタイトルだ。その〝超実写版〟が公開されたのが2019年のこと。「ライオン・キング」の世界観を最先端の映像技術で生み出し、テーマである「サークル・オブ・ライフ」を生き生きと描き出した。

その作品のはじまりの物語で声優を務めた右近と松田は、オーディションを経て、それぞれの役を得たのだという。参加が決まったときの心境について松田は「今世紀一番のうれしい出来事でした」と語る。「ディズニー作品に関わるのは夢のひとつでしたからね。僕はTravis Japanというアイドルグループに所属しているのですが、この活動は僕個人だけでなく、グループ全体としてもエンジンがかかるほど大きなものなんです。メンバーのみんなも喜んでくれました」と、少し照れ臭そうな笑顔で続けた。

いっぽうの右近は、「ディズニー作品の吹き替え版で声優を務めることが長年の夢でした」と述べたうえで、「僕は歌舞伎界という日本の伝統芸能の世界に身を置いています。『ライオン・キング』の物語が描く〝サークル・オブ・ライフ〟は、僕のいる世界と重なるんですよね。長く続く伝統の中で、先人たちの残したものが継承されていくのは同じですから。僕は〝歌舞伎界のプリンス〟なんて言っていただくこともあるのですが、歌舞伎俳優の息子ではありません。なのである意味、孤児だったムファサの気持ちに寄り添えるんじゃないかと思っていました」と当時の心境を振り返った。


「ライオン・キング:ムファサ」で吹き替えにチャレンジした松田元太=提供写真、ヘアメーク:宇佐美順子(JOUER)、スタイリスト:日夏(YKP)

松田「声を頼りに信頼関係を築いていける」

そんな右近と松田が対面するのは、この取材日が初めて。収録では一度も顔を合わせる機会がなかったのだという。けれども出会ってすぐに打ち解けたようで、お互いを「ゲンゲン」「ケンケン」と呼び合う関係だ。このふたりの並びは、まさに兄弟のようである。

タカ役が松田だと知ったときのことについて右近は、「ムファサとタカって、表裏一体の関係なんですよね。だからムファサを演じる僕としては、誰がタカを演じるのかがとても重要。どんな仕事でもそうですが、とくにこの仕事は相手がいなければ成立しません。どんな方と兄弟を演じられるのか、とても楽しみでした。タカ役がゲンゲンだと聞いたとき、ピッタリだと思いましたね。早く声が聞きたいと思っていました」と語る。

この発言に続くかたちで松田は、「ムファサの存在があって、タカは存在します。それはタカの声を演じる僕も同じ。ケンケンの声を聞いたとき、安心感で満ちあふれましたね。声を頼りに信頼関係を築いていけるはずだと確信しました」と言葉を重ねた。


「ライオン・キング:ムファサ」より © 2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

アメリカ本国のお墨付きを得た尾上右近と松田元太

右近と松田が声優に挑戦するのはこれが初。すでに歌舞伎界とアイドル界で特別な存在になっている二人は、このオーディションにはどのように臨んだのか。

まずは二人とも、とにかく課題の楽曲を聴き込んだらしい。「この情報を口外してはならないので、それが苦労したポイントでもありました。歌舞伎はみんなで作り上げるものですから、習慣的に楽屋でひとりで音楽を聴くことはありません。スマホのスピーカー部分を耳に押し当てて、こっそりと聴いていました(笑い)」と右近。

これには松田も激しく同意し、「オーディションだけでなく収録もそうなのですが、これが初めての声優のお仕事なので、どういうふうに取り組むのが正解なのか分かりませんでした。ドラマや映画の現場でお芝居をするのとは違いましたね。自分の声にも自信がなかったですし」と続ける。

二人とも、非常にいい声をしている。右近の声は野太く芯があり、まるでライオンのような、王のような貫禄がある。対する松田の声は繊細で、とてもチャーミング。耳にする者に優しく語りかけるような声の持ち主だ。そんな異なる声質の二人の掛け合いは、何気ないやり取りであっても、心地の良いハーモニーを生み出す。

しかし、いい声をしていれば声優が務まるわけではもちろんない。ディズニー作品の場合は、日本のチームだけでなく、本国のチームの審査もあるのだという。本国では知名度ではなくクオリティーを重視するので、実質この二人はアメリカ本国のお墨付きだというわけだ。予告編からだけでもその一端が垣間見えるだろう。



ムファサ役を吹き替えた尾上右近=提供写真、ヘアメーク:西岡達也(Leinwand)、スタイリスト:三島和也(Tatanca)

右近「自分の城はみんなの城」

「ライオン・キング:ムファサ」は、ムファサとタカの知られざる絆を描くもの。彼らが生きるサバンナの動物界と、右近や松田が生きるエンターテインメントの世界は、どことなく似ているところがある。そこには多くの仲間がいて、家族のような存在がある。

右近は「僕のいる歌舞伎界ととくに似ています。共通点が多い」と述べたうえで、「歌舞伎の世界は幼い頃からみんなと家族のような関係なので、そこには強い絆があり、お互いのことを分かったうえでお芝居を作ります。やがて20代になると自分の城を築くことに必死で。みんなと切磋琢磨(せっさたくま)し合い、刺激を与え合う関係になりました。でも30代に入ると、今度は感謝し合う間柄になってきた。自分の城はみんなの城だと気が付いたんです」と、自身とムファサの共通点を語る。これには松田も「めっちゃムファサだ……」と感嘆の声を漏らす。納得だ。

松田は「僕はこうして先輩のお話を聞くのが大好きです。いろんな活動をすればするほど、もっと追求していきたい気持ちが強くなりますし、どれもずっと続けていきたい」と口にし、Travis Japanのメンバーである自身とタカを重ねる。

さらに、「いまの僕には守らなくてはならない存在があるので、タカの心情と重なるものがありますね。メンバーたちとは家族のような間柄で、あるのが当たり前の存在です。こうして僕がひとりで活動をし、帰ることのできるホームがTravis Japanなんです。でもよくよく考えてみると、これってじつは当たり前のことではありませんよね。かつてムファサとタカが互いをリスペクトし合っていたように、お互いをリスペクトできなければ僕らのグループは存在しない。エンターテインメントの世界も成立しないと思うんです」と自身の内に秘めた熱い思いを述べた。

「ライオン・キング」の世界観に通ずる環境で生きている尾上右近と松田元太。二人は初めてのアテレコで「パニックになった」と声をそろえるが、彼らの声により命を吹き込まれたムファサとタカは、果たしてどのような運命をたどるのだろうか。「ライオン・キング:ムファサ」が世に放たれたとき、私たちは彼らの兄弟の絆を知ることになる。

「ライオン・キング:ムファサ」は2024年12月20日より全国公開

ライター
折田侑駿/Yushun Orita

折田侑駿/Yushun Orita

1990年生まれ。文筆家。映画、演劇、文学、マンガ、服飾、酒場など、さまざまなカルチャーに関する批評やコラムを各種メディアに寄稿。映画の劇場パンフレットにも多数寄稿しているほか、インタビューやトーク仕事もコンスタントに担当している。

この記事の写真を見る

  • 「ライオン・キング:ムファサ」で取材に応じた(左から)尾上右近と松田元太=提供写真
  • 「ライオン・キング:ムファサ」で取材に応じた(左から)松田元太と尾上右近=提供写真
  • 「ライオン・キング:ムファサ」でムファサ役を吹き替えた尾上右近=提供写真
さらに写真を見る(合計3枚)