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2024.10.29
BTSを追ってプサンへ! RM映画ワールドプレミア 5000席を埋めたARMYの熱狂
メンバーの兵役服務によりグループ活動を休止中の「BTS」だが、リーダーRMと最年少ジョングクの入隊までのソロ活動に密着したドキュメンタリー映画が話題となっている。世界120カ国・地域で上映され日本でもヒット中の「JUNG KOOK:I AM STILL」は東京で鑑賞。「RM:Right People, Wrong Place」は第29回プサン国際映画祭で世界初披露されると聞いて、現地に飛んだ。
「RM:Right People, Wrong Place」は第29回プサン国際映画祭のオープンシネマ部門でK-POPドキュメンタリー初の公式招待作品に選定。最年少ジョングクの「JUNG KOOK:I AM STILL」は世界120カ国・地域で上映され、日本でもヒット中だ。楽曲制作で自身を表現するRMと、パフォーマンスを追求するジョングク。対照的な2人の活動の軌跡は、トップランナーの重圧と成長に肉薄したヒューマンドキュメンタリーだ。
人間キム・ナムジュンの姿
秋雨降りしきるプサン。10月7日夜、「RM:Right People, Wrong Place」のワールドプレミア上映の舞台となった野外スクリーン前にはARMYと称されるファンが世界各国から駆けつけ、5000人の会場を埋めた。飛び交う言語はさまざまだが、舞台あいさつが始まると歓声はひとつに。イ・ソクジュン監督は「RMの深い内面の記録であり、誰もが生きる中で一度は経験したであろう感情の記録」と本作を表現。入隊中のRMはインタビュー映像で登場し、「生々しい人間キム・ナムジュン(RMの本名)の姿を盛り込んだ」と語った。
作品は2023年の8カ月間、各国のさまざまなアーティストとの共同作業で2枚目のソロアルバムを制作する過程を記録している。アルバム名は「Right Place, Wrong Person」(正しい場所、間違った人)。ややこしいが、映画のタイトルは「Right People, Wrong Place」(正しい人、間違った場所)だ。
「RM: Right People, Wrong Place」© BIGHIT MUSIC & HYBE. All Rights Reserved.=プサン国際映画祭提供
自分は「間違った場所」にいるのか
組織や集団の中で「自分はこの場にふさわしくない人間なのでは」という違和感を覚えることは、誰にでもあるのではないだろうか。だが見方を変えれば「間違っているのは場所のほうで、自分は正しい」かもしれない。何が正しく、何が誤りかは考え方によって変わる。単語を入れ替えることで生まれるそんなメッセージに、ラッパーとして言葉を紡ぐことにたけるRMらしさがのぞく。
13年にデビューしたBTSは不遇の時期をバネに海外進出に成功し、米グラミー賞にも3年連続でノミネート。RMは英語が堪能なリーダーとして国連スピーチに立ち、海外メディアのインタビューでもグループを代表する発言を担った。一方、人気を理由に韓国国会では兵役免除の議論が起き、世論の反発も買った。
アルバムリリース時、彼が後輩メンバー、ジミンとの対談でこう打ち明けていたのを思い出す。「みんなが僕に期待しているのは、スピーチ、英語、勇気ある発言。でも僕はただのしがない、韓国に住んでいる29歳の男なんだよ。このままいったら、本当に耐えられなくなる」
東京の団地で河川敷で 日常に溶け込む29歳
ソウル、東京、ロンドン。カメラはアルバム制作の舞台となった都市を巡る。東アジアのインディーシーンで活躍するアーティストらと作り上げた楽曲はBTSとは異質だ。音楽の世界観を、映像のざらついた質感やアニメーションが彩る。
日本人観客の目を引いたのは、写真家・水島貴大によるコンセプトフォトの撮影シーンだろう。場所は東京都大田区かいわい。河川敷のブランコで、団地の空き地で、色あせたシャツをまとった「29歳の男」が東アジアの下町の日常に溶け込んでいる。撮影中の彼の前を住民が通り過ぎるが、誰も彼がBTSのリーダーとは気づかない。スタッフの証言や映像から伝わる彼の天然ぶりに、会場から笑いも起きた。
「今回の作業をしながら、僕はone of the “Right” peopleになったと思う」。本編上映前のインタビュー映像でそう語ったRM。ありのままの自分を見つけ、解き放たれた笑顔に観客は安堵(あんど)しつつも、背負ったものの重さにも思いをはせる。日本での公開は25年1月の予定だ。
「JUNG KOOK: I AM STILL」© BIGHIT MUSIC & HYBE. All Rights Reserved.
ソロデビュー「自分の未熟さ」と闘うジョングク
秀でた歌唱力とダンススキルでグループのパフォーマンスを支えるジョングクの「I AM STILL」は23年7月にリリースされた初のソロシングル「Seven」からの活動の記録で、最年少メンバーの彼が「BTSの1人」から「1人のグローバルポップスター」へと成長していく姿を描いている。地道な練習の積み重ねが完璧なステージパフォーマンスに結実していくさまは、まるでトップアスリートのドキュメンタリーを見ているようだ。
末っ子メンバーとして先輩たちに育てられてきたジョングクは、一人で世界と向き合うプレッシャーや自分の未熟さを口にする。ソロデビュー曲のレコーディングでは高音域や英語の発音に苦戦し、「思っていたより、いろんな声を出せなかった」。喉の不調も抱えつつ、披露の日を迎える。だが、ひとたびステージに立てば、楽曲は完全に彼の血肉となっている。「繰り返し練習すると、曲と一つになれる」。リリースするシングルは全米で次々と記録を樹立。ビルボードHOT100の10位内に3曲をチャートインさせた唯一のK-POPソロアーティストになった。
レコーディング関係者は、トップスターであり続ける人間の共通点をこう語る。「試練に耐え、努力を惜しまず、決してうぬぼれない」。そのすべてが彼にあると評価した。プサン出身の内気な少年時代から彼を育ててきた、BTSの振付師として彼を育ててきたソン・ソンドゥクは「眠っていた潜在力が爆発した」と成長を振り返る。
坊主頭が示す半島分断の現実
映画館の大スクリーンで極上のパフォーマンスを堪能できるのも、本作の大きな魅力だ。とりわけニューヨーク・タイムズスクエアで23年11月に行われたゲリラライブの場面は、まるで居合わせているような臨場感だ。ライブのうわさを聞きつけた市民たちが路上を埋め尽くし、その様子を高層ビルから見つめるジョングク。緊張と興奮を高めたまま特設ステージへ。マイケル・ジャクソンをほうふつさせるパフォーマンスに群衆は熱狂し、歌声と歓声が湧き起こる。
終盤、華やかな映像は一転し、バリカンの音が響く。ヘアスタイリストは涙をこらえきれず、坊主頭になったジョングクは彼を抱きしめる。どんなに功績を残したアーティストであれ、韓国人男性として逃れることのできない兵役という義務。華やかなエンターテインメント作品にも、朝鮮半島の分断という現実が映し出される。
BTSはメンバー7人のうち、最年長のジンが今年6月に、J-HOPEが10月に除隊し、新たなソロ活動を始める。残る5人の服務期間は25年6月までとされ、所属事務所は同年中の「完全体」としての活動再開を目指している。個性と魅力の異なる7人がソロ活動を経て再結集した時、まだ誰も見たことのないBTSの世界が幕を開けるだろう。