「バッド・デイ・ドライブ」© 2022 STUDIOCANAL SAS – TF1 FILMS PRODUCTION SAS, ALL RIGHTS RESERVED.

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2023.12.09

主演作続々、玉石混交のリーアム・ニーソン 〝当たり〟の確率は?

毎回、勝手に〝2本立て〟形式で映画を並べてご紹介する。共通項といってもさまざまだが、本連載で作品を結びつけるのは〝ディテール〟である。ある映画を見て、無関係な作品の似ている場面を思い出す──そんな意義のないたのしさを大事にしたい。また、未知の併映作への思いがけぬ熱狂、再見がもたらす新鮮な驚きなど、2本立て特有の幸福な体験を呼び起こしたいという思惑もある。同じ上映に参加する気持ちで、ぜひ組み合わせを試していただけたらうれしい。

髙橋佑弥

髙橋佑弥

俳優リーアム・ニーソンについて、どんな印象をお持ちだろうか?
 
と、問いかけられたとき、たとえば以下のような応答があり得るかもしれない──「あぁ『シンドラーのリスト』の人でしょう」、あるいは「あぁ『スター・ウォーズ』のジェダイでしょ」、もしくは「あぁ『96時間』からアクション俳優に転向した人ネ」……そして、確かにどれも間違いではない。近年、毎年複数本のアクション映画に主演しているのは揺るがぬ事実である。細切れな編集で機敏に動かない身体をごまかしているなどという言説もまことしやかにささやかれているし、これについてはあながち的外れな指摘でもない(こともある)。けれど、いざ見てみればリーアム・ニーソンの近作は、振れ幅込みでとことん楽しめる、賭けなければ当たらないと言いたくなるような豊かな領野なのだ。
 

今年4本目「バッド・デイ・ドライブ」公開

むろん、見るたび全てに大満足するなんてことはなかろう。しかし、主演男優だけを理由に劇場へ足を運んでみれば、ほとんど情報を持たない状態で、どこへ転ぶか分からない企画を新鮮に味わう体験が待っている。比較的不出来な作品であっても、全く面白みが見いだせないようなものはそう無いし、他方すこぶる付きの好作品が数本に1度は堪能できるのだから、なんともオイシイ話ではあるまいか。
 
そんなリーアム・ニーソンによる2023年日本公開4本目(!)となる主演作が、目下公開中のニムロッド・アーントル監督作「バッド・デイ・ドライブ」(2023年)である。
 


 

3度目リメーク 時間は最短

ある朝、仕事人間の中年男が子供を学校へ送り届けてから出社しようと車を走らせはじめると、唐突に1本の電話がかかる。そして、謎の声は告げる。車の座席に爆弾を仕掛けた……離席すれば体重変化を察知して爆発するぞ、と。男は、受話器の向こうの声の指示に従って、ひたすら車を走らせるしかない。

──という設定が展開していく本作、じつは15年のスペイン映画「暴走車 ランナウェイ・カー」のリメーク。しかもリメーク自体が初めてではなく、ドイツ版「タイムリミット 見知らぬ影」(18年)、韓国版「ハード・ヒット 発信制限」(21年)を経ての3度目(!)だというから驚かされる。このたび、せっかく扱うのだからとわざわざオリジナルも含めた全作制覇してみたが、土台となる着想=爆弾車設定ありきの拘束力の強い企画ゆえか、細部にわずかな差こそあれど、いずれも過剰なほどに忠実で、展開はほとんど同じと言っていい。場面によっては、カメラワークまで似通う徹底ぶりである。

ちなみに上映時間はオリジナル版が102分、その後ドイツ109分、韓国94分、そして最新の本作が91分と推移しており最短を更新している。


「バッド・デイ・ドライブ」© 2022 STUDIOCANAL SAS – TF1 FILMS PRODUCTION SAS, ALL RIGHTS RESERVED.

海にザブン! そしてその後……

3度目のリメークということは、すなわちオリジナルを含めれば通算4度目ということになるのだから、もしかすると全作見ていて「この話、4回目」という鑑賞者がいないとは限らない。しかも本作自体も公開から時間がたっているのだから、少しくらい結末に言及してもよいだろう。とはいっても、犯人の正体や動機には言及しない(余談だが、この部分は数少ない各国版それぞれの差異である)。あくまでリーアム・ニーソンがどうなるか、である。

まず、リーアム・ニーソン演ずる主人公は死んだりしない。きちんと助かる。散々な悪夢的ドライブを経て、最終的に主人公は車ごと海へザブンと飛び込み、水中で車は爆発するのだが、なんとか泳いで離脱に成功するのだ。命からがら陸へと上がり、ようやく悪夢が終わりを告げる……というのが本作の終幕である。


「バッド・デイ・ドライブ」© 2022 STUDIOCANAL SAS – TF1 FILMS PRODUCTION SAS, ALL RIGHTS RESERVED.

この、海へと車で飛び込む終局はオリジナルを含めた4作品全てに共通している展開だ。どのバージョンも示し合わせたように、ひねらず同じ終わり方をする。けれど唯一違うのは、リーアム・ニーソンだけが自力で陸地へたどり着く点だ。それ以前のオリジナルを含めた3作において、主人公は引き上げられるのである。水をたくさん飲み込み、もうろうとして、周囲の呼びかけになんとか答えるうち、だんだんと意識が戻ってくる……そんなラストなのだ。しかしリーアム・ニーソンときたらどうだろう。バシャッと自力で水から上がるや否や、ずぶぬれのまま鋭い眼光を見せて、同じ帰結でもイメージは全く異なる。なんともたくましい。役柄を超えて、リーアム・ニーソンらしさが漂うとでもいうか。


「バッド・デイ・ドライブ」© 2022 STUDIOCANAL SAS – TF1 FILMS PRODUCTION SAS, ALL RIGHTS RESERVED.


主演推しでもう1本「アンノウン」

共通項のある2本をご紹介するにあたり、いつもはできる限りかけ離れた作品を選ぶことにしている。影響関係にある作品はもってのほか、可能なだけ年代や国やジャンルにも差があったほうが、並べたときに楽しかろうというわけだ。しかし、今回は導入からリーアム・ニーソン近作の流布を目的にしているのだし、駆け足にはなるが2本目もリーアム・ニーソン映画でいこう。

「バッド・デイ・ドライブ」が車のザブンで終わる映画だったとするなら、お次は逆に車の水没で動き出す映画――ジャウム・コレットセラ監督作「アンノウン」(11年)はどうだろう。

本作でリーアム・ニーソンが演じるのは、研究発表のために妻とベルリンへやってきた植物学者。彼はホテルに着いた直後、空港に荷物を忘れたことに気がつき、1人でタクシーに乗って引き返すことになる。水に沈むのはこの車だ。衝突事故を避けようとした結果、橋の上から川へ落下するのである。

「バッド・デイ・ドライブ」と対照的に、本作の主人公はきちんと死にかける。水から引き上げられ、緊急搬送され、なんとか一命を取り留めるのだが、妻に心配をかけまいと、主人公はすぐにホテルに戻り、説明して一件落着と思いきや、目の前の妻が言う──「あんた誰?」。なにかがおかしい……そこから、おぼろげな自分自身の記憶をたどる物語が始まるのだ。が、本作はリーアム・ニーソンの主演作でも屈指の傑作なので、展開を記述するヤボはここまで。その先はぜひ実際に見て確かめていただきたい。


「アンノウン」©Dark Castle Holdings, LLC


おまけ ハズレなしのベスト3

さて、わざわざ紹介しておいて手のひらを返すようだけれども、どちらかといえば「バッド・デイ・ドライブ」はリーアム・ニーソン主演近作では不調の部類にあたる。「アーマード 武装地帯」(09年)や「プレデターズ」(10年)などの秀作を手がけてきた職人監督アーントルをもってしても、融通の利かない企画を手懐けるのは難しかったということだろうか。しかし、それを認識しながらであればこそ、試行錯誤の跡を感じとる面白さがあるとも言えるのだが。
 
とはいえ、であればこそ私がお勧めするリーアム・ニーソン主演近作のタイトルを三つ挙げて締めくくることにしたい。「バッド・デイ・ドライブ」を楽しんだ方はもちろん、楽しみきれなかった方も、いまいちど「次の1本」に手を伸ばしていただけたらうれしい。ちなみに作品は「96時間」(08年)以降のものから選んでみた。順不同/製作年順である。
 
・「アンノウン」(11年)
・「フライト・ゲーム」(14年)
・「アイス・ロード」(21年)
 
シリーズものではないから、どれから見ても構わない。また、「フライト・ゲーム」は「アンノウン」と同じくコレットセラ監督作品だ。どの映画も、ほかでもない私自身が軽い気持ちで見始めて、至福の時間を味わった3本である。いずれも配信サービス(一例に過ぎないがU-NEXT)でも取り扱いがあるので、その気になれば今すぐにでも見ることができる。だまされたと思って、ぜひ試してみてほしい。
 
「アンノウン」はU-NEXTで配信中。

ライター
髙橋佑弥

髙橋佑弥

たかはし・ゆうや 1997年生。映画文筆。「SFマガジン」「映画秘宝」(および「別冊映画秘宝」)「キネマ旬報」などに寄稿。ときどき映画本書評も。「ザ・シネマメンバーズ」webサイトにて「映画の思考徘徊」連載中。共著「『百合映画』完全ガイド」(星海社新書)。嫌いなものは逆張り。

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