この1本 「さがす」©2022『さがす』製作委員会

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2022.1.20

この1本:さがす 三つの違う世界が交錯

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)。

世界は一つ。と無邪気に信じてはいけない。自主製作した「岬の兄妹」で注目された、片山慎三監督の商業映画デビュー作。大阪・西成の片隅で、全く異なる三つの世界が交錯する。

中学生の楓(伊東蒼)は父親の智(佐藤二朗)と2人暮らし。智が「懸賞金のかかった指名手配犯を見かけた」と言った翌日、失踪した。行方を捜す楓が手がかりをたどって工事現場を訪ねると、父親の名前で働いていたのは、指名手配犯の山内(清水尋也)だった。

物語はこの3人の視点から、三様に語られる。楓は、だらしないが憎めない智を追って、必死で走り回る。同級生との淡い恋模様にときめき、大人たちに反発してムチャをする。青春映画の薫りがする。重い病の妻を介護していた智の過去。妻をいたわりつつも苦しむ姿は、夫婦の愛情を描いた難病ものの痛ましさがある。そして、SNSを悪用して殺人を重ねる山内。こちらは猟奇殺人のスリラーだ。

全然色合いの違う3本の映画になりそうな三つの物語が、崩壊することなく一つに収まった。片山監督は驚くべき剛腕を見せる。初めこそ唐突な転換に戸惑うものの、人物を周到に出し入れし、それぞれの場面で3人の性格を印象づけるエピソードを効果的に配置する。三つの視線はやがて一つにまとまり、複雑な余韻を残す終幕まで緩みがない。

楓の場面の笑いと山内の章の不気味さが同居するのは、映画的には冒険だろうが、世の中とはそういうものだ。分かり合っているつもりでも、実は他人同士。凄惨(せいさん)な事件と心温まる交情は、いつも同時に起きている。それでも絶望はしない。ひたむきな楓のまなざしに可能性を感じさせて、かろうじて世界をつなぎとめた。

俳優陣も奮闘。特に佐藤はクセの強い演技を抑え、うさん臭くも懸命な父親を好演した。2時間3分。東京・テアトル新宿、大阪・テアトル梅田ほか。(勝)


ここに注目

この手の犯罪ものは韓国映画の独壇場だが、ついに日本からも超一級のスリラーが現れた。複数の登場人物の視点で構成された脚本のオリジナリティー、理不尽な猟奇性と人間臭いおかしみが平然と同居する描写の懐の深さ。パソコンに「さがす」と打ち込めば「捜す」、もしくは「探す」と変換されるが、まさしくこれは失踪から始まる「人捜し」の話であり、あまりにも奇怪な事件の「真実探し」に引き込まれずにいられない。そしてピンポン(卓球)をモチーフに父娘の情愛を表現したショットにも、驚くべき趣向が凝らされている。(諭)


技あり

池田直矢撮影監督が切れのいい画(え)を撮った。冒頭、智が金づちを振り上げては下ろす不気味な動きをズームにのせ、夜の大阪の盛り場を楓が走っていく引き画に、重なりが長いオーバーラップ。池田のアイデアという。思わず引き寄せられる。白眉(はくび)は、風の強い曇天のビルの屋上で山内と智が話す場面。不穏なやり取りをする2人を、回り込みを重ねて撮る。智が入り口に向かうと、山内はたたみかけるように智を誘う。今度は大きいサイズの切り返し。片山監督が「多くを説明しなくても意図をくんでくれる」という信頼に応えた。(渡)