ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス ©Marvel Studios 2022. All Rights Reserved.

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2022.5.03

映画の推し事:「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」ファン目線で高い満足度 SYO

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

SYO

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多元宇宙から迫る危機 最強魔術師に新たな試練



拡張続くマーベル・シネマティック・ユニバース

2008年の「アイアンマン」に始まり、今や世界最大のヒットシリーズへと成長した「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)」。各作品がすべてつながっているという手法で継続的なファンを生み出し、「新作が公開されたら見に行く」という作法を植え付けた。近年では劇場映画だけでなく、Netflixで配信されていた連続ドラマ「デアデビル」(権利はディズニーに移行)、ディズニーの配信サービス「ディズニープラス」のオリジナル作品とも接続。さらなる拡張を見せている。
 
22年は1月の「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」に始まり(海外の公開はほぼ昨年だったが)、3月のディズニープラスのオリジナルドラマ「ムーンナイト」、「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」が5月4日公開、「ミズ・マーベル」が6月8日配信(ディズニープラス)、「ソー:ラブ&サンダー」が7月8日公開と新作ラッシュ。畑は違えど4月公開の「モービウス」などのSSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース。ソニー主体の「スパイダーマン」シリーズの派生作品)などを入れれば、毎月のように新作が公開・配信されるアメコミイヤーだ。
 
MCU自体がライトからコアまで多くのファンを抱えているものの、直近の「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」はそこに加えて、また一味違った盛り上がりも見せている。伝説のドラマ「SHERLOCK/シャーロック」や本年度のアカデミー賞受賞作「パワー・オブ・ザ・ドッグ」でも熱演を見せたベネディクト・カンバーバッチと彼が演じるストレンジの人気はもちろん、監督がトビー・マグワイア主演「スパイダーマン」シリーズのサム・ライミなのだ。
 

「スパイダーマン」のサム・ライミ監督がアメコミ復帰

ライミ監督がMCUでアメコミ映画に帰還するということで、オールドファンからも期待を寄せられていた「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」。加えて、音楽はライミ監督と「スパイダーマン」でコラボした作曲家ダニー・エルフマンが務めると発表(撮影監督は「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」のジョン・マシソン)。
 
さらに、関係者の証言により「どうやら今回はホラー要素もあるらしい」というウワサが飛び交い、その熱はますます強くなる。というのも、サム・ライミ監督といえば「死霊のはらわた」をはじめホラー映画の名手として知られているから。MCUのファンはもちろん、より広い規模での映画ファンに刺さる要素がそろっているのだ(本編上映前には「アバター」新作「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の特報が流れる予定で、そういった意味でも映画好きの注目度は増している)。
 
もちろん、MCUの流れにおいても「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」は避けては通れない作品。実は本作、タイトル発表時から話題を呼んでいた。それは、タイトルに「マルチバース」というワードが入っていたからだ。マルチバースとは、多元宇宙のこと。端的にいうと、いま私たちがいる宇宙とは別の宇宙が多数存在しているという理論で、なんらかの事態が発生してそこを行き来できるようになると物語のスケールがより広がっていく。
 

ここには書けないサプライズの連続!

もともと、MCUの「フェーズ4」(MCUにはフェーズという区分けがあり、21年1月配信の「ワンダヴィジョン」以降がフェーズ4)のラインアップが発表されたタイミングで、ついにマルチバースが導入されることが示唆されていた。タイトルにその名を冠した「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」は、その象徴的な作品だったわけだ。そして本作の一つ前の劇場公開作となる「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」で、トビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールド演じる別宇宙のスパイダーマンがトム・ホランド演じるスパイダーマンと共闘する姿が描かれた。これまでの「スパイダーマン」映画はそれぞれが〝別宇宙の物語〟だと再定義されたわけだ。
 
そして、「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」後の物語を描く「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」においては、冒頭からマルチバース展開が満載。ネタバレを避けるために細かくは述べないが、マルチバースを行き来する能力を持った少女アメリカ・チャベス(ソーチー・ゴメス)の登場によって、ストレンジは別宇宙に飛ばされ、強大な敵&全宇宙の危機と対峙(たいじ)せねばならなくなる……といった物語が展開する。
 
物語や各キャラクターの心情を理解するためには「ワンダヴィジョン」「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」まで見ておく必要があり、がっつりファン向けの作品ではあるが、そのぶん今後のMCUを追いかけていくうえでもキーになりそうな要素がこれでもかと盛り込まれている。サプライズはもちろんのこと、シリーズ全体に影響を及ぼす展開が巻き起こるため、ファン目線で見た満足度は非常に高いはず(この辺り、ネタバレに抵触するため勢いよく書けないのが歯がゆいところだが、おお!と思うようなビッグサプライズがいくつかあるので、未見の方は楽しみにしていただきたい)。
 

「傲慢で自己中」ヒーローの覚醒と成長

また、「傲慢で自己中心的」と言われがちなストレンジが、ヒーローとして更なる覚醒を見せつけていくドラマ部分も興味深い。「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」「アベンジャーズ/エンドゲーム」で全宇宙を救うために自らがとった〝選択〟に対する自問、アイアンマンやキャプテン・アメリカを失った悲しみ、「スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム」で見せた次世代へのまなざしなど、彼のこれまでの歩みがしっかりと本作に生きており、そのうえで新たなる試練に対してどう向き合うか――独断専行タイプのストレンジが自省のすえに他者を信じてそれぞれの力に頼るという、信頼×共闘していく姿が複数パターン描かれている。
 
「次なるアベンジャーズのリーダーは誰か?」という目線で見るのも「アベンジャーズ/エンドゲーム」以降の楽しみ方のひとつだが、ストレンジにどんどんリーダーの資質が芽生えていく過程にはシビれるものがある(アイアンマン/トニー・スタークの名ゼリフ「3000回愛してる」を彷彿<ほうふつ>とさせる愛の名言も登場)。
 
さらに、「ワンダヴィジョン」で強大な力を持つスカーレット・ウィッチへと進化したワンダ(エリザベス・オルセン)の動向にも注目。正義と悪の危うい境界線上を歩む彼女は、新たな力を得たことでどこに向かうのか。ワンダもまた、凄絶(せいぜつ)な過去を持つキャラクターであり、本作では「ワンダヴィジョン」に引き続き、彼女の葛藤にスポットが当てられている。
 

トリッキーな映像、ホラー要素 新挑戦も

摩訶(まか)不思議な映像世界も「ドクター・ストレンジ」シリーズの特徴だが、今回もトリッキーな演出が多々。例えば複数の宇宙でのキャラクターの動きがシンクロするシーンでは、細かいカットを交互にシャッフルさせてリアルタイム感を強める表現を用いている。ストレンジとチャベスが複数の宇宙を横断する際のカラーリングの変化、色とりどりの植物に覆われた別宇宙のニューヨーク、音符を使った魔術バトルに随所に挟まる主観映像など、映像面の独自性も高い。
 
そして、サム・ライミ監督らしさも全開。序盤から巨大な一つ目&触手を持ったグロテスクなモンスターとの街中でのバトルが用意されており、その後も床の水たまりに目が映る、窓に映った自分の姿が別人になっている、写真の目が動く、消えたと思った敵が眼前に飛び出してくる、身体がバキバキに折れた状態で敵が鏡から出てくる、とあるキャラクターのビジュアルがどんどん狂気じみたものに変貌していく等々、ホラー要素がかつてない濃度で盛り込まれている点はMCUにとって新たな挑戦といえるだろう。
 

大ヒット作続々の22年 興行の健闘も期待

結婚式に参列していたストレンジが窓から飛び降り、タキシードからヒーロー姿に変身する演出など、街を舞台にした縦横無尽(特に縦の動きが顕著)なバトル演出も「スパイダーマン」を彷彿とさせる。画面前方に向かって去っていく人物を後方から見守る配置・構図もそうであるし、そもそも「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」の物語自体が「大いなる力には大いなる責任が伴う」という「スパイダーマン」と通じるテーマを内包しており、サム・ライミ監督が本作を手掛けた強みが、存分に出ている印象だ。
 
4月8日に封切られた「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」が興行収入33億円、3月4日公開の「余命10年」が興行収入28億円、4月15日公開の「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」が52億円をそれぞれ突破するなど好調だが、「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」にもゴールデンウイーク映画として、興行面での健闘も期待したい。新型コロナウイルスによる行動制限がないゴールデンウイークは、3年ぶり。しかも本作の日本公開は全米より早く、追い風が吹いている。アベンジャーズ最強の魔術師は、映画界にどんな夢を見せてくれるのだろうか。

ライター
SYO

SYO

1987年福井県生まれ。東京学芸大学にて映像・演劇表現を学んだのち、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て2020年に独立。 映画・アニメ、ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トークイベント、映画情報番組への出演も行う。