「大地と白い雲」

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2021.8.19

「大地と白い雲」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

中国・内モンゴルのフルンボイル草原で、牛や羊と暮らす夫婦。夫のチョクト(ポリチハン・ジリムトゥ)は都会に出ることを望み、妻のサロール(タナ)はこの場所での暮らしに満足していた。ある夜起こった悲しい出来事をきっかけに、2人の思いはさらにすれ違っていく。

目を奪われるのは、どこまでも続く大地と真っ青な空に浮かぶ雲。草原を駆ける馬の映像は息をのむほど美しく、タナの歌声にも詩情がある。ふらりと街へと出かけてしまうチョクトの姿を通して、価値観の変化で遊牧民としてのアイデンティティーが揺らいでいく物語を描き出す。

しかし夫婦のずれを巡る描写はありふれていて、身勝手に見える夫の心に寄り添うことは難しかった。内モンゴル出身の作家、モー・ユエの小説を映画化したのは、北京電影学院で教授を務めるワン・ルイ監督。本作で中国最大の映画賞、金鶏奨の最優秀監督賞や東京国際映画祭最優秀芸術貢献賞などを受賞した。1時間51分。21日から東京・岩波ホール。大阪・テアトル梅田(9月3日公開)ほか。(細)

ここに注目

序盤とラストに夫婦がお互いを捜す心憎い構成で作品の核心をえぐる。どんなに愛し合っていても相いれない夫婦の姿を浮き彫りにした。草原での移りゆく暮らしと携帯電話に象徴される時代の波を丁寧に映し出し、どう生きていくかという普遍的なテーマを観客に投げかける。(鈴)

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