©2023GOLDFISH製作委員会

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2023.3.20

ロックの迎賓館レッドシューズのオーナーが見た「GOLDFISH」 音からストーリーから映像から、キャストから、ビシビシとロックが伝わってくる映画

音楽映画は魂の音楽祭である。そう定義してどしどし音楽映画取りあげていきます。夏だけでない、年中無休の音楽祭、シネマ・ソニックが始まります。

門野久志

門野久志

アナーキーのギタリスト、藤沼伸一さんの初監督作品「GOLDFISH」を見た。
アナーキーは、私が大好きなパンクバンド。埼玉県の同級生がバンドを組み、1980年、シングル「ノット・サティスファイド」、アルバム「アナーキー」でデビュー。過激な歌詞とハードなサウンドに若者は魅了された。「東京イズバーニング」は日本の皇室を批判するもので、右翼団体から激しい抗議を受け回収される事態となった。「何が日本の〇〇だ。何にもしねえでふざけんな!」という危険な歌詞。体制に逆らって生きるのがロック、それがかっこいいと思う不良のハートをつかんだ。

 

不良が一番カッコ良かった時代

私は高校生の頃、不良の先輩から「おまえ、こんなバンド知ってるか? 暴走族でバンドやってるんだ。アナーキーって言うんだぜ! かっこいいんだぜ!」って感じで。不良が一番カッコ良かった時代。バンドやっている、暴走族に入っているというだけでカッコいい!と思った。その象徴のゆうな存在だったアナーキー。そのうち後輩たちがコピーバンドを始めて。カッコもアナーキーのまねして。「シゲルが、ライブハウスで遠藤ミチロウぶっ飛ばしたんだって! カッコいいよな、シゲル」って。
 
セックス・ピストルズもクラッシュも知っていたけど、それよりアナーキーにハマった。パンクのサウンドにストレートな日本語の歌詞がグイグイ来る。とげとげしく、ヒリヒリして、でも少し滑稽(こっけい)で。幼なじみがバンドという形で一つになり、舟をこぎ出し大海に出て行ったアナーキー。

 
アルバムを重ねるごとに、どんどんサウンドが変化していった。しばらくアナーキーから遠ざかっていたのだが、アナーキーのコピーバンドをやっていた後輩に再会した時、新しいアナーキーのアルバムを聴かされた。「デラシネ」というアルバム。今までのアナーキーのサウンドもありつつ、しかし進化している。その進化の部分には、ロックのルーツのブルーズが、ローリング・ストーンズがはっきりと感じられた。これがその頃の私にまたがっつりハマり、またアナーキーを聴き出した。
 
しかしその後、ギターの逸見泰成(マリ)が元妻を刺し逮捕された。マリは、メンバーの中ではスポークスマン的な存在で、金髪でヒョウ柄のジャケット、まるでセックス・ピストルズのシド・ヴィシャスのようなパンクの象徴であった。センシティブな性格であるが故の事件だったのだろう。

 

同窓会のような再結成は嫌だ

残されたメンバーはアナーキーという名前を使えなくなり、「THE ROCK BAND」として活動を続ける。私が初めてこの「THE ROCK BAND」を見たのは、上京して間もない頃でまだ東京・新宿の小滝橋通りにあった日本のロックの聖地、ライブハウス「新宿ロフト」だった。そこでの藤沼伸一さんは、まるでキース・リチャーズ の生き写しのようなスタイルでギターを弾いていた。

 
それから私はバー、レッドシューズでボーカルのシゲルさんに出会い、仲良くしてもらうようになり、内田裕也さんやX JAPANのhideやLUNA SEAのJ、歌舞伎役者の中村獅童、映画監督の宮藤官九郎ともつながりが深くなっていった。
 
シゲルさんは、俳優業もこなし、映画にも出演していた。私は、下北沢の老舗の劇場「スズナリ」にも舞台を見に行ったことがある。シゲルさんは表現者。舞台に立つ時も、映画に出て演技をしている時も、常にアナーキーの仲野茂を感じる。
 
それに対してギターの伸一さんは、ギタリスト、ミュージシャン、アーティストだ。音楽という作品を作り出す人。だからアナーキーを再結成する時も、「同窓会のような再結成は嫌だ。必ず新曲をやる。」と言っていた。

 
そんな伸一さんが、還暦過ぎて映画監督としてデビューした。新たな挑戦だ。年を重ねるごとに、新しいものに手を出すのはおっくうになる。それは誰しもだが、伸一さんは、それをやってのけた。
 
この映画は、アナーキーを支える多くのミュージシャンや俳優、芸人、そうそうたるメンバーが登場し、アナーキー愛あふれる映画だ。しかし、身内ノリのなれ合いの映画ではない。それは主演のギタリスト、イチ役の永瀬正敏をはじめとする、この映画のフロントを固めるキャストが素晴らしいことが中心にある。ボーカルのアニマル役は渋川清彦、ベースのテラ役はアナーキー大ファンの怒髪天、増子直純。そして、マリの乗り移りのようなハル役、北村有起哉。死に神役に町田康と、ワクワクするメンツである。また若き日のガンズのハル役の山岸健太も、勢いと光を感じる。

 
素材はロックなのだがロックを感じない映画が多い中、こんなに音からストーリーから映像から、キャストから、ビシビシとロックが伝わってくる映画にはなかなか出合えない。
 
この映画はアナーキーがモチーフになっているが、事実と異なることもたくさんある。ただ単に映画として楽しんでもらえるようにとの監督の思いがある。しかし事件の後のメンバーとの格差に苦しむマリや、メンバーのマリに対する思いや愛情が描かれている。バンドは、みんながそろってバンドなんだと。ロックが好きでアナーキーが好きという方にも見てもらいたいが、ロックをあまり聴かない、アナーキーを知らない方々にもぜひ見てもらいたい。
 
そして、「やりたいことは幾つになってもやれるんだ、戦うことを諦めちゃいやしないぜ!」という生き様を、メッセージを感じてほしい。

ライター
門野久志

門野久志

生誕40年を迎えたロックの迎賓館レッドシューズの2代目オーナー。 また西麻布にロックスナック、ラリーをも営む。 RSJP代表。 福井県出身。
関連書籍
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 森永博志 『続ドロップアウトのえらいひと』東京書籍
 田代洋一 『ロックな生き方』JUICE MOOK
『東京ブルーズ&ロック地図』交通新聞社