「屋根裏のアーネスト」の一場面 ©2022 Netflix, Inc.

「屋根裏のアーネスト」の一場面 ©2022 Netflix, Inc.

2023.3.20

さまざまなジャンルを融合させたホラーコメディー「屋根裏のアーネスト」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

ひとしねま

須永貴子

オープニングは、固定カメラで捉えた一軒家のショットから。真夜中につの人影が絶叫しながら飛び出してきて、そのまま車に乗って逃げ去っていく。誰もいないのに玄関のドアが勝手にまり、2階の窓にともっていた電気が消える。そこで「WE HAVE A 👻」というタイトルが表示されることで、本作がホラーコメディであることが宣言される。
 
1年後、その家にプレスリー一家が越してきた。1904年に建造されたこの家は、イリノイ州歴史保護協会に登録されている歴史的建造物だ。屋根裏に足を踏み入れた一家の次男、16歳のケン(ジャヒー・ディアロ・ウィンストン)は、中年男性の幽霊に遭遇する。瀟洒(しょうしゃ)な白い外壁、薄暗い室内、高い天井、曲線を使った大きな窓など、そういえば70年代のホラー映画「悪魔の棲む家」を彷彿(ほうふつ)とさせなくもない建物だ。しかし、いわゆる幽霊屋敷ものとはまったく異なる方向にストーリーが展開していく。
 

最大の魅力はデビッド・ハーバー演じる幽霊のキャラクター造形

 まず、ケンは幽霊を見てもまったく驚かない。それもそのはず、この幽霊は人間を怖がらせようとする動作が古臭いのだ。両腕を上げてひらひらさせながら、しかめっ面をしてうめきつつ、ゆっくりと近づいてくる。スマホで動画を撮影しながら思わず笑い出すケンに、幽霊は(心外だ‥‥‥)という表情ですぐに姿を消してしまう。なんという繊細さ!
 
この幽霊は50年前(70年代前半)に亡くなってから、この家にとらわれ続けていることが追って判明する。おそらく彼は、当時流布していた幽霊のイメージをなぞってパフォーマンスしていたと思われる。
 
先程の「心外だ‥‥‥」という表情しかり、デッド・ハーバーが演じる幽霊のキャラクター造形が本作の最大の魅力。ケンとのやりとりの中で、幽霊は話すことができず、記憶もなく、なぜ自分がこの家にとらわれているのかもわからないことが明らかになる。
 
自分の名前も覚えていない幽霊を、彼が着ているボリングシャツの胸元の刺しゅうを見て、ケンはアーネストと呼び始める。言葉がなくとも、アーネストの表情や仕草から伝わる彼の優しさやユーモアは、ケンがアーネストにかれるに十分だ。
 
ンとアーネストをつなぐものとして、70年代の音楽が要所要所で使われている。プレスリー家は黒人だが、ケビンは父親への反発心からか、ブラックカルチャーからあえて距離をとっている。いやいや引っ越してきたときにイヤーポッズで聞いていた曲は、アリス・クーパーの「No More Mr. Nice Guy」。
 
屋根裏でアーネストを呼び出すときに、「警戒しなくていいよ」という思いを込めてギターを弾きながら歌う曲は、C.C.R.の「Who’ll Stop The Rain」(70)。父親に振り回されて引っ越しばかりさせられているケンは、友達も作れず、この時代の音楽に逃げ込んでいる状態だった。お互いに孤独だったケンとアーネストは共有する音楽を通じて心を通わせていったのだ。
 

新キャプテン・アメリカのアンソニー・マッキーがクセの強い父親役を

 ケンを振り回す父親のフランクは、新キャプテン・アメリカに指名されたアンソニー・マッキーが演じている。昔のホラーコメディー映画であれば、子どもの浅薄な言動から騒動が拡大していくが、この映画では父親のフランクが騒動の張本人。一千金を狙い、息子が撮ったアーネストの動画を勝手にYouTubeにアップし、再生数に一喜一憂し、家に記者やアーネストのファンが押し寄せるとニヤニヤが止まらない。
 
ンが父親に反発するのは、いろいろな事業に失敗したり、家族で行ったボウリング場で隣のレーンの人とケンカになったりと、その計画性と忍耐力のない衝動的な振る舞いにたくさんの迷惑を被ってきたからだ。アーネストの件で難色を示す妻に、「1回だけでも成功したい(から協力してくれ)」と頼み込むせりふで、人生の一発逆転を夢見る45歳の人物像が残酷なほどクリアになる。
 
若い頃は人気者で、失敗してもルックスの良さでごまかせたのだろうが、自分の能力を過信したまま年齢を重ね、何も成し遂げていない自分に気付いて焦る中年男性。この人物をセクシーでハンサムなアンソニー・マッキーが演じることで、そのいたたまれなさが一層際立つ。
 
ンとアーネスト、ケンとフランクの関係をベースに展開するのは、SNSからテレビまで広がったアーネスト・フィーバーと、アーネストを捕獲しようとする政府機関との攻防戦だ。
 
その一方で、ケンは隣人の同級生・ジョイ(イザベラ・ルッソ)に協力してもらいながら、アーネストの過去を探っていく。半透明のアーネストは、壁をすり抜けることができるので神出鬼没。我々は彼に触れられないが、彼は人に触ることもできるし、危害を加えることも可能だ。
 
映像におけるギミックも多彩。逃げるアーネストがレストランやタトゥーショップなどが入った長屋の壁を突き抜ける様子をワンカット(風)で撮影した、ミュージックビデオのようなシーンなど、観客を楽しませようとする丁寧な仕事が好印象だ。
 
監督・脚本は「ハッピー・デス・デイ」シリーズや「ザ・スイッチ」などで、ホラーの可能性を探り続けているクリストファー・ランドン。本作では「ビートルジュース」や「エクソシスト」、「ゴースト/ニューヨークの幻」、「ゴーストバスターズ」など、過去の〝幽霊もの〟にオマージュをささげながら、ホラー、コメディ、アクション、ミステリーを融合。見る人を選ばない、しかし人物造形が非常に深い、見ごたえのある娯楽作を作り上げることに成功した。
 
「屋根裏のアーネスト」はNetflixにて独占配信中

ライター
ひとしねま

須永貴子

すなが・たかこ ライター。映画やドラマ、TVバラエティーをメインの領域に、インタビューや作品レビューを執筆。仕事以外で好きなものは、食、酒、旅、犬。