「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」シーズン2より

「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」シーズン2より©Amazon MGM Studios Prime Video

2024.9.30

「力の指輪」シーズン2も配信中!「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの歴史をご紹介

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よしひろまさみち

よしひろまさみち

「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」シーズン2がPrime Videoで配信スタートと同じタイミングで、アニメーション映画「ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い」が今年12月27日に公開されることも発表された。
 
ピーター・ジャクソン監督による3部作「ロード・オブ・ザ・リング」が世界を席巻して二十数年、そもそも「指輪物語」が映画・映像界をにぎわせるようになったのはいつからか。そして長年にわたりファンを魅了し続けている理由とは。
 


映像化不可能と言われた大長編小説が原作

原作「指輪物語」はイギリスのJ・R・R・トールキンが1954~55年にかけて発表した3編6部にわたる大長編小説。トールキンの初期作品である「ホビットの冒険」(37年)からその旅は始まり、没後なお派生作品が作られ続けている、ファンタジー文学のベストセラータイトルだ。
 
各国で翻訳された「指輪物語」に関する研究は世界中の文学・言語・歴史・宗教など各部門の研究者によってされているほか、美術や音楽などにも影響を与えたとされる。本作のもっとも独創性に優れたこととして挙げられるのは、言語から作ってしまったこと。地球で人間社会ができるよりずっと前の時代設定で、「中つ国」と呼ばれる架空世界を舞台にし、人間だけでないさまざまな種族が共存・共生を目指す物語。
 
「中つ国」=Middle-Earthが、北欧神話における人間世界=ミッドガルドを語源としていることから分かるように、アイデアのモチーフは神話や伝説だ。人間と、人間と近い姿かたちのホビットとエルフ、ドワーフ、魔法使い、異形のオーク、トロルなど多くの種族が、それを持つ者が世界を制すると言われる「指輪」をめぐり戦うという物語。
 
「ホビット」としてシリーズ映画化された「ホビットの冒険」は、ホビットのビルボ・バギンズがこの指輪を見つけたことによって巻き起こる冒険譚(たん)で、その後の世界戦争を描く「指輪物語」(映画版「ロード・オブ・ザ・リング」3部作)としてつながっていく。
 
指輪に書かれた文字はエルフが使う言語のひとつであるフェアノール文字で、言葉自体は冥王サウロンが支配するエリア、モルドールの暗黒語とされているほか、「指輪物語」には架空の言語が多く使われている。じつは、トールキンの創作の原動力は、架空言語をいちから作り上げることとされ、その着想は「ベオウルフ」や、ケルト神話、北欧神話など欧州の伝承物語から得ていた。これまで多くのファンタジー小説や映画が作られてきたが、オリジナルの言語にまで着手した大衆小説は「指輪物語」くらいのものだろう。
 
テッド・チャン原作の「あなたの人生の物語」をドゥニ・ビルヌーブが映画化した「メッセージ」でも、異星人ヘプタポッドの言葉が登場するが、音声やわかりやすいアルファベットを伴う言語ではないし、映画化が決定しているアンディ・ウィアー原作の「プロジェクト・ヘイル・メアリー」でも異星人の言語は地球人には理解できない楽器のような音(しかも即座に地球の言葉に翻訳するソフトを開発する)。
 
トールキンの姿勢は、我々の世界の物語ではないのに、都合よく英語などの言語が使われること自体、ファンタジー世界を描くうえで間違っている、といわんばかりだ。
 
となると、難しくなるのは映像化。映像化するにあたっては、キャラクターの造形や世界観の構築のみならず、あまりにも多くの種族で構成されたキャラクターの特性を解説せねばならず、そこにさらに作品上にしか存在しない言語が入ってくると情報過多となるからだ。
 
それゆえに長年にわたり「映像化不可能」というレッテルをはられていたのが「指輪物語」だった。その理想的な実写化がピーター・ジャクソンによってなされたことで、指輪ファンだけのものではなく、広く一般のファンをつかむことになったといえる。
 

「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」シーズン2より

ピーター・ジャクソン版以前にもアニメ化されていた

 だが、この作品の映像化は、ピーター・ジャクソン版の20年以上前に行われていた。ラルフ・バクシ監督による78年のアニメーション映画「ロード・オブ・ザ・リング 指輪物語」(劇場公開時は「指輪物語」)だ。これを劇場で見たときのことは忘れられない。
 
なぜなら、アニメーション映画=子供向けとされていた時代の作品にして、全く子どもには向いていないトラウマ必至映画だったから。Amazon版「~力の指輪」を紹介する前に、少々このアニメーション版について説明したい。
 
当時のアニメーション映画は、今のそれとはイメージが違う。日本アニメの父・手塚治虫が現役バリバリで、劇場公開されたのは人気テレビアニメの「ルパン三世」や「キャンディ・キャンディ」、「宇宙戦艦ヤマト」などの劇場版、そしてウォルト・ディズニーに憧れ独自路線を貫いていたサンリオ制作による「チリンの鈴」など。アニメーション映画は子どもたちの娯楽の核として存在した。
 
その中では超異質だった「~指輪物語」。かわいいキャラクターは皆無で、モーションは異様なまでにリアル。構成も暗くわかりにくいうえに、ピーター・ジャクソン監督の3部作でいうと「~二つの塔」の途中までしか描かれておらず、物語半ばで終わる。それゆえに、興行的には大失敗。日本でも当時劇場で見た、という声はあまり多くは聞かなかった。
 
これが再評価され、カルト的な人気を得たのはその後の話だ。じつはラルフ・バクシ監督はウォルト・ディズニーが作り上げてきたキャラクターアニメーションとカウンター関係のクリエーター。
 
擬人化した猫キャラ・フリッツが主人公の成人指定アニメーション「フリッツ・ザ・キャット」(72年)や、アフリカ系アメリカ人の抗議によって上映中止に追い込まれた「ストリートファイト(クーンスキン)」(75年)など、ラブ&セックス(&ドラッグ)を描いた子ども受けを全く狙わない独自路線の作風で知られている。
 
そんな彼が、表現の自由を求めてファンタジー作品に着手したのは自然の流れだろう。彼の「~指輪物語」はファンタジー路線の第2作であり、前作となるのは「ウィザーズ」(77年)。魔法使いものでありながら、戦時中の実写映像をインサートし、東西冷戦期にあった核戦争の脅威を示唆する、バキバキにエッジがきいた作品だ。
 
「~指輪物語」でも、彼らしい先鋭的な実験がなされている。アニメーターが作り出すアニメーション独自の動きにNOを突きつけるため、人間のモデルが演じた動きを収めたフィルムを一コマずつトレースし、それをアニメーション化(これをロトスコープといい、ディズニーの「白雪姫」などでも使われた)。
 
筆者が「妙にリアルで気持ち悪い」と感じたモーションは、今の技術でいうところのモーションキャプチャーが取り入れられていたからだ。そこが当時の観客には違和感にしかとらえられず、ハイファンタジー作品である「指輪物語」を、子供向けや万人受けのフィルターにかけなかったこともあわせて興行的な失敗となってしまった。
 
が、時がたつとともに、指輪ファンの間だけでなく、アニメーション映画、ファンタジー映画のファンの間でも、実験的な映像、原作が持つダークな世界観をねじ曲げることなく描いた意欲作として再評価されるようになる。アニメーションやファンタジー作品が、子供向けのものではなく、大人も楽しめるエンターテインメントとして認識されるようになったことで、ようやく時代が追いついたといえるだろう。
 
「指輪物語」初の映像化となったバクシ版「~指輪物語」が、いわゆるカルト作で一般的には失敗作の烙印(らくいん)を押されていたからこそ、ピーター・ジャクソンによる初の完全実写映像化「ロード・オブ・ザ・リング」3部作が生まれたといえる。
 
仮にバクシ版が成功していたなら、即「~王の帰還」まで完結させていただろうし、それを超えようとするクリエーターが現れるまでには相当時間がかかったはずだ。バクシ版から二十数年でジャクソン版3部作、そしてそれから約20年。運命めいた周期でやってきたのが、Amazon版の「~力の指輪」となる。
 

「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」シーズン2よ

シーズン1は舞台設定の紹介多し

シーズン1は賛否が真っ二つだった。舞台設定がジャクソン版3部作の2000年前(中つ国第二紀)で、おなじみのキャラクターがほとんどおらず、いわば「ホビット」シリーズの「エピソード0」かそれ以前。トールキンがこの時代を扱った「シルマリルの物語」などがあるものの、一切の権利を持つトールキン財団はそれらの引用は許可しない代わりに、原作と矛盾しなければキャラクターなどの設定を創作可能としていることも、賛否が分かれた原因となった。
 
が、否定的にとらえることは簡単だが、ある程度の自由がある原作の再解釈が可能となったことは、「指輪物語」では初めてのことだ。しかも映画ではなくシリーズ。近年でいえば「ゲーム・オブ・スローンズ」が成功したように、壮大なファンタジーはシリーズ化に適しているため、誰もが知るタイトルであるのにクリエーティブな制作環境が与えられたといえる。
 
エルフの戦士ガラドリエルによってなされる冥王サウロンの復活、のちのホビットとなるハーフット族の冒険、のちのガンダルフとなる魔法使いの覚醒、そして世界を守る力を持つ指輪……。「ロード・オブ・ザ・リング」3部作に出てくるモチーフを上手に生かしながら、どうしてあの世界になったのかを構築した物語。シーズン1の序盤をご覧になった方なら分かると思うが、あまりの設定の多さに、物語の展開が遅く、少々冗長に感じてしまうかもしれない。
 

「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」シーズン2より

シーズン2はスピーディーに物語が進行する

だが、シーズン2は安心してほしい。シーズン1でキャラクターや世界観の説明は全て済んでおり、爆速で物語が進行するのだ。これをなしたのは、シーズン1のなかで、一気に駒を進め名作との呼び声高いエピソード6&7の監督シャーロット・ブランドストロム。
 
エミー賞獲得で話題になっている「SHOGUN 将軍」でも数エピソードを担当した彼女が、シーズン2のメイン監督を務め、驚くほどドラマチックに、スピード感を持った物語に仕上がった。
 
特にこれまでの映像版で深く掘り下げることが難しかった、中つ国の文化と生態の多様性については、本シリーズがリード。善悪をかけた世界戦争物語としてだけでなく、あらゆる種族が共生する世界のヒューマニティーを描いたドラマとして見ていただきたい。
 
「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」シーズン2はPrime Videoにて独占配信中

ライター
よしひろまさみち

よしひろまさみち

よしひろ・まさみち 映画ライター。雑誌、新聞、webなどの媒体で洋画を中心に、取材・執筆。テレビ、ラジオなどでの映画紹介も担当する。

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