シンプルな情熱  ©2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction  ©Julien Roche

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2021.7.01

シンプルな情熱 喜びや痛みを鮮烈に

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

フランス現代文学の作家アニー・エルノーが、1991年に発表した自伝的ベストセラー小説の映画化。「去年の9月から何もせず、ある男性を待ち続けた」。そんな主人公エレーヌ(レティシア・ドッシュ)の回想で始まり、妻子ある年下のロシア人アレクサンドル(セルゲイ・ポルーニン)に心奪われた日々が紡がれていく。

エレーヌは出産、離婚を経験し、小学生の息子を育てながら、大学で教鞭(きょうべん)を執っている。知的で自立した女性だが、気まぐれなアレクサンドルの誘惑に抗(あらが)えず、自宅やホテルでの逢瀬(おうせ)に身を焦がす。女性が一方的に男性に従属する関係は、#MeToo運動時代の今なら誹(そし)りも受けそうだが、作り手に迷いは一切ない。赤裸々なセックスシーンとともに描かれるのは、社会通念を超越した恋の魔力であり、その虜(とりこ)になったエレーヌの制御不能の〝情熱〟だ。主演女優ドッシュの表情と肉体が、恋の喜びや痛みを鮮烈に体現する。

主人公の一人称視点で映像化された夢幻的な日常描写も印象的。それは〝恋に落ちている〟感覚を観客に追体験させるかのようだ。ダニエル・アルビド監督。1時間39分。東京・Bunkamuraル・シネマ、大阪・シネ・リーブル梅田(9日から)ほか。(諭)

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