「ファミリア」 ©2022「ファミリア」製作委員会

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2023.1.06

この1本:「ファミリア」 ゴツゴツと生身の共生

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

新年のおとそ気分に、こんな映画でカツをいれるのもいいかもしれない。日本の今を織り込んだ社会派ドラマだ。

誠治(役所広司)は片田舎で小さな窯を持つ、1人暮らしの陶器職人。息子の学(吉沢亮)が、海外の赴任地から妻ナディアと帰国する。一方、近隣のブラジル移民コミュニティーでは、マルコス(サガエルカス)が日本人の半グレ集団とトラブルを起こし、ブラジル人を憎悪するリーダーの海斗(MIYAVI)に追われていた。ある日マルコスが誠治の元に逃げ込んできたことから、ブラジル人との交流が始まった。

地方の小さな共同体も、世界と地続きだ。マルコスは移民に冷たい日本社会に反発している。海斗は彼らを容赦なく攻撃し排除する。その中で誠治は、静かな生活に入り込んできた異質な人々を戸惑いながら受け入れる。3者の関係は移民問題の縮図だろう。

映画は後半、大きく展開する。帰任した学とナディアが、テロリストの人質となる。誠治は身代金の足しにと家財を売り払って政府に乗り込んだものの、テロリストとは交渉しないとにべもない。

団地のモデルは愛知県豊田市にあり、人質事件は2013年、アルジェリアの邦人がテロに巻き込まれたことに触発されたという。現実が生硬なまま取り入れられ、映画はゴツゴツと不格好だ。しかし、親子の情がつなぎ目となって映画の血肉となる。誠治も学もマルコスも、文化や言葉を超えて切実に家族を求める。海斗の憎悪すら、家族を亡くした喪失感と怒りに根ざす。

ニュースで淡々と伝えられる出来事は、遠くではなく自分たちのすぐそば、もしかすると自分自身に起きるかもしれない。日本にも外国由来の人々は増え「共生社会」が掲げられる。しかし大文字の「共生」は、個のレベルの相互理解からしか始まらないと訴えるのだ。2時間1分。東京・丸の内TOEI、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)

異論あり

主人公とその息子と嫁が織りなすパートと、ブラジル人の若者たちが日本の半グレ集団から執拗(しつよう)な暴力を受けるパートが並行して描かれ、中盤まで別々の映画をザッピングして見ているような違和感を覚えた。しかし、二つのパートを結びつける役目も果たす役所はさすがの存在感で、在日外国人コミュニティーの現実に切り込んだ視点が新鮮。後半には、スケールの大きな展開が盛り込まれ、それもまた意外ではあった。とかく内向きでこぢんまりとしがちな日本映画のありようを打破しようとした、作り手の野心がうかがえる。(諭)

技あり

ベテラン撮影監督の藤沢順一が、流れるような運びで撮った。冒頭、土を見つけることから始まる誠治の仕事を、安定した構図と明暗で紹介。続いて団地の高層階から下向きのカメラ、次はかぶせめの視点から登校する子供たちが出てくる。すれ違いに、帰って来た水商売の女性群と出勤する男たちの迎えの車。隣の車道を誠治のトラックが逆方向に急ぐところまで、カットを変えず押す。話の継ぎ目の画(え)のうまさも光る。誠治が外務省で金を渡そうとするが拒絶され、帰路の車中で見せる不自然な横顔。不穏な内容を安定した画で見せた。(渡)