出版社が映画化したい!と妄想している原作本を担当者が紹介。近い将来、この作品が映画化されるかも。
皆様ぜひとも映画好きの先買い読書をお楽しみください。
2023.1.11
「君にささやかな奇蹟を」どこにでもいるひとりの大人が、誰かにエールをもらって、夢を追いかけなおす物語。
幼い頃に抱いた夢を、そのまま幸せな形で叶(かな)えている大人は、どれくらいいるだろうか。成長とともに、人は諦めを覚えて、夢は破れたり変化したりしていくものだけれど、幼い自分のあの夢を、今も懐かしく心のどこかに灯(とも)しつづけている大人は、きっとたくさんいるだろう。
この物語の主人公・阿部伊吹(あべいぶき)も、そんなひとりだ。彼女の夢は「絵本作家になること」。夢を叶えるべく、いくつもの新人賞に応募するも、落選が続き、ゆるやかに諦めて、今は老舗百貨店の子供服雑貨売り場で働いている。今の仕事にはやりがいを感じているし、もうそろそろチャレンジの日々も潮時かな――と感じていた。
この物語は、そんなどこにでもいるひとりの女性が、自分の夢をもう一度見つめなおしていく物語だ。けれど、彼女は自分ひとりで夢を追いかけたわけではない。
もうひとりの主人公は、不器用サンタクロース!?
彼女の前に突然現れたのは、ひとりのサンタクロース。驚くことなかれ。実はサンタクロースは世界各国に実際に存在しているのだ。日本における「サンタクロース家」の現当主は明日真・ニコラオス・聖也という青年。この青年は、伊吹に恋をし、彼女の夢を応援していくことになる――のだが、彼は、あまりに不器用なダメダメ男だった。初対面から伊吹へのコミュニケーション方法を間違え、はちゃめちゃに嫌われてしまう。しかも伊吹は、幼少期のあるトラウマから、サンタクロースそのものが大嫌いだったことも判明する。
しかし聖也はめげない。どうにかして伊吹を元気づけたい、振り向かせたいと、とにかく頑張る。ひたすら頑張る。けれどあまりに不器用な聖也は失敗ばかり。なんとか取り付けたデートでは気合を入れすぎて引かれ、伊吹への愛を渋谷のスクランブル交差点のど真ん中で叫び続けて逮捕され……etc.
いつの間にか胸に灯る、あたたかい恋心にきゅんとする
けれど伊吹は、そんな失敗ばかりの不器用サンタに、いつの間にか元気をもらっていることに気づく。そして、かけがえのない存在になりつつある聖也の想(おも)いを受け止めながら、一度は諦めた自分の夢と向き合っていくのだ――。
小説内では、もっとたくさんの、びっくりするくらいたくさんの紆余(うよ)曲折がふたりに訪れる。けれどその困難は、私たち読者に、誰かを心から愛することの尊さと、夢を追うことの美しさを教えてくれる。そして背中を押してくれる。がむしゃらに頑張ることは、ぜんぜん恥ずかしくないんだよ、と。
本作の舞台は東京だ。東京タワー、東京駅、渋谷スクランブル交差点……と、ロマンチックな名所もたくさん登場する。自分に訪れるかもしれない素敵な奇蹟(きせき)を夢見ながら、作品に出てくる場所を巡ってみるのも楽しいかもしれない。
また、由緒正しきサンタクロース家の当主である聖也には、個性的な家来がたくさん。戸中井(となかい)、曽利(そり)、神宮(じんぐう)ベルといったクリスマスにちなんだ名前の家来たちのドタバタ劇も楽しく、思わず声をあげて笑うシーンがいくつもある。
個性的な登場人物に彩られた、切なくあたたかい恋物語。「桜のような僕の恋人」の著者・宇山佳佑が贈る珠玉のこのストーリーを、ぜひたくさんの方に知っていただきたい。