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2022.9.16
インタビュー:一緒にいることが幸せか? 冷めた視点で家族問う 「靴ひものロンド」 ダニエーレ・ルケッティ監督
「靴ひものロンド」はローマとナポリを舞台に、夫と妻、親子関係のひずみ、愛と憎しみを赤裸々に描いた濃厚な人間ドラマだ。冷徹なまなざしで家族それぞれの核心に迫ったのは「ワン・モア・ライフ!」「ローマ法王になる日まで」などのイタリアの名匠ダニエーレ・ルケッティ監督。家族についての「分析的な映画を作りたかった」と語った。
不幸の理由を他者に求める人たち
1980年代初頭のナポリ。ラジオで朗読を仕事にする夫アルドと妻バンダ、2人の子どもアンナとサンドロの平穏な暮らしは、夫の浮気で一変する。夫は妻子の元を去り、定期的に子どもに会いにくるが、妻は精神状態が不安定になり自殺未遂を起こす。数年後、家族はふとしたきっかけで再び一緒に暮らし始める。時は過ぎ、老齢を迎えた夫婦は夏のバカンスに出かけるが、帰宅すると家はひどく荒らされ飼い猫は失踪していた。
ドメニコ・スタルノーネの小説「靴ひも」(新潮クレスト・ブックス)の映画化。「結婚生活の残酷さを心が痛む形で描いていることに興味を感じた」。ルケッティ監督がひかれたアイデアの一つは靴ひもだ。「結婚生活をつなぐ絆のような役割を果たすが、時に私たちの首を絞め、身動きできなくするものだ」
次が子どもの視点。大人に成長したアンナとサンドロの思いが驚くほど明快に表現される。「姉弟は両親の怒りを受け継いでいる」。4人の家族、老齢の父母、大人になった姉弟と、時を隔てた三つの物語が「一つの大きなうねりを生み出し映画的」と感じて作品に取りかかった。
カトリック的家族観の呪縛
終盤、成長した姉弟が両親を軽蔑し、突き放す場面の描写はすさまじい。「感情とか感動とか、情緒的なところに寄せて作るのは割と簡単。作品にも出てくる入れ子の箱のように、皮をむいていくとさまざまな側面が出てきて、それをはがして家族を描きたかった」
「もう一つはある種の人生の残酷さ。子どものことを思えば、夫婦は別れた方がいい。アルドは愛人と暮らしている方が幸せだし、子どもたちはバンダを怖がり、おびえている。そうした残酷な事実があることを少し乾いた目、冷めた視点で撮った」
日本には「子はかすがい」という言葉があり、子どもが別れた両親を結びつけるドラマや映画、落語もある。「当時のイタリアはカトリック的結婚観が支配していて、信者でなくても、カトリック的家族のありようが根付いていた。家族は一緒にいないといけない。結婚は契約で解消はできないという考えが強かったが、今はそうしたトラウマは薄れつつある」。ルケッティ監督は続ける。「あの時代は、離婚は人生の破滅で失敗と捉えられていた。アルドとバンダは絆を保とうとして一生不幸になり、子どもたちはその犠牲になった」
自分で作ったオリに閉じ込められている
年老いても一緒に暮らすアルドとバンダへの視線も厳しい。ルケッティ監督の描写に容赦はない。「夫婦でいうと、その人がどうしても与えられないものを相手に求めるのは最も残酷なことだ。自分が不幸である理由を他者に求めている気がしませんか」
ルケッティ監督は、幸せになれないことの理由を「アリバイ」と表現する。その証明を他者に委ねているからだ。「アルドは、オレが不幸なのは妻がそこにいるからだと思い、子どもも不幸の原因は親であると考える。誰もが、幸せになれないのは家族(他者)のせいだと思っている。もう一つタイトルを付けるとするなら『アリバイ』でもいいくらいだ」
バンダはアルドが去って行くことを恐れ、また裏切られるかもしれないと疑っている。アルドも、オリの中にいる自分は囚人だと言うが、オリを作っているのは彼自身だ。子どももしかり。「家族それぞれが、自身の不幸を人のせいにしている姿を映し出した」
サスペンスの要素も取り入れ
ルケッティ監督の分析はさらに鋭さを増す。「登場人物はみな、自己のイメージを他者に投影している。つまり、他者によらないと自分像を描けない。夫も妻も子どもたちも、自分のなかに自分像を構築できていないのだ」
こう書いてくると、この映画、不快な人たちの集まりと思われるかもしれない。しかし、誰にでも少なからずこうした部分はあるだろう。だから見ていて引きつけられる。ルケッティ監督は「こうした物語だからこそ、意図的にサスペンスの要素を取り入れた」と話す。「観客がストーリーの中に入り込むには導線のようなものが必要だ。激情的、演劇的なセリフが多いのは、映画を生き生きさせる効果を考えたから」
誰かのせいにして生きるのは世界的な〝病〟なのだろうか。最後に、その病をこの家族に凝縮させたのかと聞いてみた。「そういう生き方をよく目にするようになった。人を踏み潰して自分が成功するというだけでなく、自分の失敗や破滅を確認するために、誰かを鏡として見ることすらしている」
公開中。
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