毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.10.07
特選掘り出し!:「アメリカから来た少女」心の揺らぎ瞳にたたえ
少し前に「はちどり」「夏時間」という思春期の少女の内面の揺らぎを描いた韓国映画が話題になったが、本作は台湾で数多くの賞に輝いた家族ドラマ。1990年生まれのロアン・フォンイー監督が、自身の体験を投影させた長編デビュー作である。
主人公のファンイー(ケイトリン・ファン)は、母(カリーナ・ラム)が乳がんになったためロサンゼルスから台北に戻ってきた13歳の少女。新しい学校になじめず、アメリカの友だちを恋しがる彼女は、ことあるごとに母に不満をぶつけ、仕事で不在がちな父(カイザー・チュアン)や幼い妹との関係もギクシャクしていく。
映像表現に「はちどり」ほどの鋭さはない。いわば思春期映画の定型に収まった作品ではある。しかし小さな瞳に不安やおびえをたたえたケイトリン・ファンの演技、陰影に富んだビジュアルに引き込まれるし、SARSウイルスが流行した時代の空気感も伝わってくる。とりわけ乗馬好きの少女が心のよりどころを求めるように、真夜中の厩舎(きゅうしゃ)で白馬と対面するシーンが美しい。終盤に登場人物のひとりが発する「愛してる」という言葉も胸に響く良作となった。1時間41分。8日から東京・ユーロスペース。順次全国でも。(諭)