「レベル・リッジ」

「レベル・リッジ」© 2024 Netflix, Inc.

2024.9.23

知識とスキルで権力に立ち向かう、秀逸なアクションサスペンス「レベル・リッジ」

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ヨダセア

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人々は歴史を通じて、抑圧される弱者=一般人が諦めずに、支配力を暴走させる強者=権力者を打ち倒さんとする物語を求めてきた。「スター・ウォーズ」シリーズや「V フォー・ヴェンデッタ」(2005年)から、現在上映中の「モンキーマン」(24年)まで、権力に正面から立ち向かうことの勇気と恐怖を描く映画は社会に広く受け入れられ、大衆に希望や活力を与え続けている。9月6日()より世界独占配信開始となったNetflixオリジナル映画「レベル・リッジ」もまた、その仲間入りを果たす作だ。
 
Netflixにおける「今日の映画TOP10(日本)」で第1位(9月14〜15日現在)になっており、国内でも注目を集めていることが見受けられる「レベル・リッジ」は、主人公テリーが拘束されたいとこの保釈金を持って移動中、地元の警察に呼び止められ、保釈金を含む大金を不当に押収されてしまうシーンで始まる。じわじわと浮かび上がってくる小さな町の腐敗。元海兵隊員であるテリーはその知識やスキルを駆使して、少ない協力者を得ながらその腐敗に立ち向かうのだ。
 

社会問題を扱いながらもキャッチーな作り

今作はいわゆる〝白人の警察が有色人種を不当に扱う〟という社会問題を描く作品のひとつにあてはまるが、セリフではあえてレイシズム問題に限定した批判に徹することはなく、あくまで基本的には〝軍事的知識と戦闘スキルを備えた主人公が政治的腐敗に立ち向かうアクションサスペンス〟として作られている。
 
構造としては「ジョン・ウィック」シリーズ、「ドント・ブリーズ」シリーズといった〝なめてました系映画〟にも当てはまるのだ。重たい社会問題を取り扱いながらもある程度キャッチーなその作りは、国内外で多くの視聴者を獲得するのに貢献しているだろう。
 
権力を盾に、高圧的で強引な態度を取る警察だが、彼らに対しても物じせず、堂々と落ち着いたスタンスを貫くテリー。その強い意志と覚悟を鋭い眼光に宿し、その場に応じた最適な行動を取り続ける彼は非常にクールなキャラクターだ。さらに〝元海兵隊員〟のテリーには随所で戦闘シーンも用意されているが、戦闘シーンでは派手さよりリアリティを意識しているようだ。無駄のない動作で冷静に敵を制圧・無力化していく、実的なアクションも今作の見どころだろう。

 

活躍が期待される主演のアーロン・ピエール

テリーを演じたのはアーロン・ピエール。M・ナイト・シャマラン監督の「オールド」(21年)で長編映画への初出演を果たしたピエールには今後、主人公ムファサの声を演じるディズニー映画「ライオン・キング:ムファサ」(24年12月公開予定)や、マーベル作品「Blade(原題)」への出演も控えている。現在30歳にして「レベル・リッジ」での威厳のある風格を見せた彼の今後の活躍にはますます期待が高まった。
 
さらに、弁護士事務所の一職員という弱い立場にありながら、我が身の危険を顧みずにテリーに協力した女性サマーを演じたのはアナソフィア・ロブ。「チャーリーとチョコレート工場」(05年)のバイオレット役や「テラビシアにかける橋」(07年)のレスリー役といった少女キャラクターを演じ、子役時代に強い印象を残した俳優だ。
 
以降もコンスタントに俳優活動は続けているものの、近年はそこまで目立つ映画には出演していなかったロブ。しかし今作のサマー役では正義感と行動力を持つ知的な若者役として、子役時代から変わらぬ利発なオーラを最大限発揮しており、これから再び注目されるのではないか。
 
そして、テリーに圧力をかけてくる警察として〝メインヴィラン〟たるポジションを演じたのが、1980年代に一世を風靡(ふうび)した俳優ドン・ジョンソン。最近では「ジャンゴ 繫がれざる者」や「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」などに出演している彼が、自身の特権を当然顔で享受する、高圧的なヒール役をになった。
 
ジョンソンは「特捜刑事マイアミ・バイス」(84~89年)や「刑事ナッシュ・ブリッジス」(96~01年)といった刑事ドラマの主演としても知られているため、今作では彼が〝悪徳警察〟を演じているというのも長年のファンには面白いツイストといえよう。
 

細部の言葉や動きまで見逃すな

自分やその家族が安定している時に、他人や社会のためにリスクを取るというのは非常に難しく、勇気のいる決断だ。今作でもほとんどの登場人物がリスクを恐れ、町にはびこる〝闇〟を見て見ぬふりしている。そんななか、不正を許さず警察の陰謀をくじこうとかけ回るテリーとサマーが見せる正義の信念と善の心は、彼らに接した人々をも変化させていく。
 
現実においても存在するであろう、社会の腐敗した醜い側面を毒々しく描く一方で、家族を助けようとする無償の愛や、人々の普遍的な良心をストレートに示した「レベル・リッジ」。どこか性善説的に人間の良心を信じ、未来に希望を託すような今作の作風は、多くの視聴者の心を打つことだろう。
 
なお、アクションにおいても会話においてもリアリティーを追求し、最低限の動作・セリフによって〝引き算〟の構造をとっている今作では、ひとつセリフを聞き逃すと主人公らが何を目的にどのような行動を取っているのかわからなくなるといった可能性が大いに考えられるため、細部の言葉や動きには気を配りながら楽しんでほしい。
 
Netflix映画「レベル・リッジ」は独占配信中

ライター
ヨダセア

ヨダセア

フリーライター。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(X・Instagram)やYouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」においても映画や海外ドラマに関する情報・考察・レビューを発信している。

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