「SHOGUN 将軍」より ©2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

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2024.6.10

エミー賞ノミネートなるか⁉ 真田広之渾身(こんしん)の主演・プロデュース時代劇「SHOGUN 将軍」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

村山章

村山章

ディズニープラスで配信中のドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」が、世界的にかなりの勢いでヒットしている。特に本国アメリカでは、エミー賞に真田広之、コズモ・ジャービス、アンナ・サワイ、浅野忠信ら主要キャストが軒並みノミネートされるという予想の声も多い(ノミネートの発表は7月17日)。
 


関ヶ原の戦いが起きた1600年の日本を舞台にしたフィクション

「SHOGUN 将軍」の原作は、イギリス出身の作家ジェームズ・クラベルが1975年に発表した長編小説「将軍」で、80年にもリチャード・チェンバレンと三船敏郎の主演でドラマ化されている。関ヶ原の戦いが起きた1600年の日本を舞台にしたフィクションであり、登場人物も架空の名前に変えられているが、日本の視聴者であれば、おおまかに豊臣秀吉の死から徳川家康と石田三成が対立していく史実の流れに沿っていることに気づくはずだ。

コズモ・ジャービスふんするイギリス人航海士のブラックソーンは、徳川家康に仕えたイギリス人ウィリアム・アダムス(三浦按針)がモデルで、西洋人が日本のサムライ文化を発見していく目の役割を果たす。
 
ただしブラックソーンは西洋人の代表とはちょっと違う。異国の文化が理解できず野蛮に感じることもあれば、むしろ自分たちのほうが野蛮であることに気づいたり、切腹という奇異なものに哲学的価値を見いだしたりもする。ある種の独自の感性に基づいて、理解と衝突を繰り返し七転八倒するのだ。

この価値観のゆらぎがあるからこそ、本シリーズは非常に面白い。現代を生きるわれわれにしてみれば、もはや日常的な感覚や価値観は1600年のサムライよりブラックソーンに近いだろう。そして「どっちが正しいのか?」という倫理的追求を、ほとんどこの作品はしていない。
 
われわれ日本人も実は会ったこともないサムライとはこういう生き物であったのではないかと、まるで別次元の生き物として提示しているに近い。ブラックソーンは特にふたりの日本人女性と心を通わせるが、それも甘ったるい理解や共感ではなく、異質の価値観同士の袖と袖が触れ合った、というレベルを超えることはない。


プロデューサー真田広之、セットや美術など違和感ないよう心を砕く

真田広之は徳川家康にインスパイアされた大名、虎永を演じるだけでなくプロデューサーも務め、日本から時代劇のスタッフを招聘(しょうへい)し、あらゆるシーンのセットや衣装、美術や作法などに違和感がないように心を砕いたという。真田広之が「ラスト・サムライ」以降ハリウッドでのおかしな日本描写にあらがって、さまざまな手を尽くし改善に取り組んできたことはよく知られている。

にもかかわらず、「SHOGUN 将軍」は日本のどんな時代劇にも似ていない。確かにセットや衣装の完成度は想像をはるかに超えて素晴らしいし、日本人の役には皆、ちゃんと日本人俳優がキャスティングされている。
 
しかしアメリカで企画され、カナダで撮影し、国籍の異なるキャストとスタッフがコラボレーションをした結果、われわれに染みついていた「時代劇ってこんな感じ」という先入観から解き放たれ、「余計なフィルターを通さずに1600年の日本を描いてみたい!」という気概が生まれたのではないか。

いや、それも一視聴者の勝手な思い込みかもしれないのだが、画面に映るものすべてが新鮮でずっと驚いていた。普段日本ではあまり目にしないタイプの俳優たちが重要な役どころを任され、それぞれに少しずつベクトルの異なる芝居をしながらひとつの世界を形作っているさまを見るのも、非常に刺激的だった。
 
もちろん最初に挙げたスターたちの演技も素晴らしい。だが、むしろなじみのない顔、顔、顔が画面に映っていること、彼らのたたずまいや声の出し方、そこはかとなく漂うぎこちなさや違和感も含めて、細かいひとつひとつの事象が「SHOGUN 将軍」ならではの世界観やスタイルを形作っていることは間違いない。

もはやこれは従来の時代劇という枠ではなく「ゲーム・オブ・スローンズ」的ファンタジーのような気もするが、極論すれば日本の時代劇だって固有の形式をもった一種のファンタジーであって、歴史を再解釈してアレンジしたものにすぎない。むしろ時代劇というジャンルに風穴を開けてくれる作品が、これほどのスケールで届けられたことに感謝しかない。
 
シーズン2、シーズン3も決まったとのことで、今後の展開はより原作にはない方向へと手を伸ばしていくはず。このチームはいったいどこまで〝時代劇〟を遠くに連れて行ってくれるのか、いまはワクワクしながらエミー賞受賞の快挙を祈りたい。

「SHOGUN 将軍」はディズニープラスのスターで全話独占配信中

ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。

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