世の中にたえて桜のなかりせば ©2021「世の中にたえて桜のなかりせば」製作委員会

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2022.3.31

特選掘り出し!:世の中にたえて桜のなかりせば 生の鮮やかさ、次代に伝え

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

主演の宝田明が2022年3月14日に急逝した。張りのある透き通った声や穏やかな語り口は遺作となった本作でも変わらない。終活をアドバイスする老紳士を演じ、妻や孫世代にも優しく、ダンディーでハンサムな映像を残し旅立った。

不登校の女子高校生、咲(岩本蓮加)は同じアルバイトの敬三(宝田)と、余命わずかな人や危険が伴う職業の人の終活相談を受けていた。ある日、敬三から病気の妻と以前一緒に見た桜の思い出を聞き、探しに出かける。

若いころから憧れだった桜を題材に映画を撮りたいと宝田が企画。当初から、女子高校生が主演、茨木のり子の桜の詩の引用、一部がタイトルでもある在原業平が桜を詠んだ和歌、自身の出演を盛り込んで映画作りが始まったという。生徒からのいじめで教師を辞め自暴自棄になった咲の元担任や多様な境遇の相談者を配置して、ストーリーに奥行きを持たせた。宝田と妻役の吉行和子の安定感もあり、設定や展開の違和感もさほど気にならず。宝田、岩本のスター映画を見ているような味わいと省略の妙を楽しめる。戦争体験をもとにした宝田の反戦メッセージもありありと。三宅伸行監督。1時間20分。東京・丸の内TOEI、大阪・梅田ブルク7ほか。(鈴)