「千夜、一夜」©2022映画「千夜、一夜」製作委員会

「千夜、一夜」©2022映画「千夜、一夜」製作委員会

2022.10.07

「千夜、一夜」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

登美子(田中裕子)は島の水産加工場で働いている。夫が失踪して30年になる。漁師の春男(ダンカン)は登美子への思いを何年も前から伝えているが、決して届かない。登美子は元町長から、2年前に中学教師の夫(安藤政信)が失踪した看護師の奈美(尾野真千子)を紹介される。奈美は「いなくなった理由がほしい」と折り合いをつけ、気持ちの整理を口にする。

年間約8万人といわれる行方不明者。映画は待ち続ける女の揺れる内心を見つめ、次第に分け入っていく。待ち続ける女と待つことに区切りをつけたい女が交錯し、そのコントラストが2人の女の生きざま、痛切な日々を想起させる。ただ、年月が過ぎても、変わらずに焦がれる春男の姿が、ややうっとうしい。田中の静、尾野の動といういかにものキャスティング、舞台が北の離島の小さな港町と、孤立感が極まる設定に窮屈さを覚えてしまった。白石加代子、長内美那子の両ベテランは貫禄の演技。久保田直監督。2時間6分。東京・テアトル新宿、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(鈴)

異論あり

中年過ぎの男女が、ひたすら「待つ」。待つという行為は受け身で、もどかしい。待ち続けるうちに何を待っているのか分からなくなり、しまいに待つこと自体が目的化していく。登美子をはじめ登場人物の欠落感や焦燥感、諦観も入り交じり、後味が切ない大人の作品。(勝)

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