「鉄道員(ぽっぽや)のロケが行われた根室本線幾寅駅 13年3月24日撮影

「鉄道員(ぽっぽや)のロケが行われた根室本線幾寅駅 13年3月24日撮影

2022.3.08

「鉄道員(ぽっぽや)」で初高倉健のススメ

2021年に生誕90周年を迎えた高倉健は、昭和・平成にわたり205本の映画に出演しました。毎日新聞社は、3回忌の2016年から約2年全国10か所で追悼特別展「高倉健」を開催しました。その縁からひとシネマでは高倉健を次世代に語り継ぐ企画を随時掲載します。
Ken Takakura for the future generations.
神格化された高倉健より、健さんと慕われたあの姿を次世代に伝えられればと思っています。

後藤恵子

後藤恵子

3回目となる高倉健を次世代に語り継ぐ企画、
Ken Takakura for the future generations
本日は40代の後藤恵子さんです。

入り口の一本

俳優・高倉健に興味を持ったら、まず何から見るべきか?と聞かれたならば、自分は間を置かずに``それは「鉄道員(ぽっぽや)」``だと答えるだろう。
 
高倉健の代表作といえば、アクションが好きなら「網走番外地」シリーズ。
ヒューマンドラマが好きなら「幸福の黄色いハンカチ」。
洋画が好きなら「ブラック・レイン」。
時代劇が見たいんだ、というなら「四十七人の刺客」。
その他、年代、嗜好(しこう)によって、前に挙げたもの以外でもさまざまな作品の名前が挙がってくるかと思う。
 
だが、老若男女、特にリアルタイムで高倉健を見たことがなく、何らかのきっかけで興味を持ったという人に、205本もある出演作からまずはどれを見るべきか?と聞かれたならば、自分としては高倉健作品の入り口には「鉄道員」をお勧めしたい。
 
高倉健の出演作の中でも興行収入が20億円を超える大ヒット、ビデオグラム全盛期の中でレンタルも盛況だったろうし、テレビでも繰り返し放映されてきたため、知らない人はあまりいないであろうメジャーなタイトルだ。だが、お勧めする理由はそれだけではない。
 

高倉健の軌跡を見るうえでの分岐点

「鉄道員」では年を重ねてなお、銀幕スターである高倉健を見ることができる。「鉄道員」を起点に若かりし頃の出演作へさかのぼれば、精悍(せいかん)さや若さといった魅力が強調される。そんな時代から少しずつ渋みが出てくる過程と俳優・高倉健の軌跡を見るうえでの分岐点となる作品だと思うからだ。
 
自分自身、若さが前面に出た魅力よりも、渋さ・年輪といった人生経験が顔ににじみ出る、いわゆるイケオジ的な要素を持つ役者が昔から好きだからという個人的な理由も大きいが……。
しかし、それを差し引いたとしても誰もが入りやすい作品ではないだろうかと思う。
 

北海道と雪がイメージされる高倉健 18年1月31日~3月31日北海道立函館美術館追悼特別展「高倉健」看板

自然に負けずに対峙(たいじ)

「鉄道員」での高倉健は蒸気機関車のカマたき・機関士から駅長にまでなったタイトル通りたたき上げの鉄道員。責任感の強さゆえに仕事から離れられず、妻・娘の最期をみとれなかった乙松を演じている。
 
駅長という仕事を自分の使命と捉え、ストイックに鉄道員であることを全うするあまり、一見家族をないがしろにしているようにも見える。だが、心の内では深く家族を思っており、そんな不器用な乙松を妻(大竹しのぶ)と同僚(小林稔侍)らは理解し見守ってもいるのである。
 
乙松の定年退職直前という時間軸から若かりし頃に戻り、現代に至るまでを回想する形で物語は進行する。時代の流れと鉄道を取り巻く状況を暗喩するとともに、乙松の心情と周囲の人間模様も共に描いている。
 
「鉄道員」では派手で大きな事件が起こるわけではない。北海道の自然豊かな大地の中、日常の生活で起こる出来事が淡々と描写される。このタイプの作品は脚本・演出の出来が作品を左右するが、ぴりっと締まる作品となるか、どことなく間延びした作品になるかの分かれ目は役者の力量によると思う。
 
「鉄道員」では芸達者な役者が多数出ているが、高倉健はほぼ出ずっぱりの中、約2時間の上映時間を見せきってしまう。
 
「どんな名優でも子役と動物にはかなわない」とはよく言われるが、個人的には自然もその中に含まれると思う。例えば旅先で大自然の中にいる時、自然災害が発生したニュースに触れた時、人間とは何てちっぽけな存在なのだ、自然の中では自分は無力だ、自然に生かされているのだな……と思わされる。
 
だが、「鉄道員」では雪の中を駅にたたずむシーンで主人公が自然に負けずに対峙(たいじ)し、地面に立ちながらしっかりと存在感を放ち、若い時から1999年まで保ち続けたスター性をこれでもかと見せ付けたのである。
 

エモーショナルな演技を上書き

一方で「鉄道員(ぽっぽや)」には他の出演作よりも、表情や演技がより人間味があるように思える。一般的な高倉健のイメージは「寡黙」「孤高」「無口」といった感情があまり見えにくいものが多く挙げられるように思う。
 
自分の中でも同じイメージで、特に印象に残っている某CMでの``不器用ですから``というセリフが象徴していると思っていた。
 
が、「鉄道員」の劇中では、元々あるイメージはそのままに、シーンごとの表情やしぐさから、感情を律しているけれどもエモーショナルな演技をする役者・高倉健というイメージが上書きされる。
 
つまり「鉄道員」は映画スターである高倉健と人間味ある演技をする役者・高倉健が融合した一つの完成形の作品なのだ。
 
高倉健を知り、何を見ようかと思ったときには「鉄道員」を見たあと、この作品を基点とし、高倉健はいかにしてこの境地にたどり着いたかをたどる旅として過去作品を追いかけてみるのはいかがだろうか。

「鉄道員(ぽっぽや)」
Blu-ray&DVD発売中 Blu-ray:3,850円(税込)DVD:3,080円(税込) 販売:東映 発売:東映ビデオ

ライター
後藤恵子

後藤恵子

ごとう・けいこ 熊本県出身。映画WEBメディア運営会社、広告会社で営業、映画事業などコンテンツビジネス周りを担当。2021年10月にダフネ・エンタテインメント㈱を設立。主に映画・アニメ周りのプロモーション等に携わる。

カメラマン
ひとしねま

梅田麻衣子

毎日新聞写真部カメラマン

カメラマン
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。

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