毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.1.28
わたしの叔父さん
2019年の第32回東京国際映画祭でグランプリを受賞したデンマーク映画だ。主人公は14歳の時に家族と死別し、伝統的な酪農業を営む叔父に引き取られた女性クリス(イェデ・スナゴー)。27歳になった今は体の不自由な叔父を支えながら、家畜の世話などをこなしている。そんなクリスの決まりきった日常に静かな変化が起こり……。
セリフで多くを語らずとも、実に豊かな人情の機微をすくい取った逸品である。獣医になる夢や気になる男性への接し方に揺らめくクリスと、見た目も物言いもぶっきらぼうだが彼女を思いやる叔父。2人のやりとりは笑いも誘うが、小津安二郎を敬愛するフラレ・ピーダセン監督は、あえて通俗的な感動作に仕立てない。人生の複雑さから目を背けずに、生き方の選択という普遍的なテーマを探求し、登場人物の哀歓に迫真性がこもった一作となった。ユトランド地方の農村地帯の風景が厳しくも美しい。1時間50分。東京・恵比寿ガーデンシネマほか。大阪・テアトル梅田(2月5日から)ほか順次全国で。(諭)
ここに注目
食事と牛の世話というつつましくも豊かなルーティンに引き込まれ、始まって10分近く経過してやっとセリフが出たときには、不思議なユーモアが。観客に委ねるタイプのエンディングゆえクリスが開かれた未来に進んでいけるのか心配にもなり、複雑な余韻がしばらくあとを引く。(細)