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2023.11.07
2017年の人気ドラマ「力の強い女 ト・ボンスン」の痛快スピンオフ、「力の強い女 カン・ナムスン」:オンラインの森
女性にのみ超人的な怪力が受け継がれる家系を描いたドラマ「力の強い女 カン・ナムスン」。22歳の主人公カン・ナムスン(イ・ユミ)、ナムスンの母ファン・グムジュ(キム・ジョンウン)、祖母キル・ジュンガン(キム・へスク)――の豪傑3世代が、世直しのために大暴れする痛快な物語だ。
女性にのみ超人的な怪力が受け継がれる家系の女性3代が大暴れ
ナムスンは幼い頃に父親と訪れたモンゴルで迷子になる。モンゴル人夫婦に保護され、育てられるが、過去の記憶をなくしてしまう(十八番の記憶喪失!)。育ての親から十分な愛情を注がれて成長したナムスンは、迷子になった時の所持品から自分が韓国出身だと知る。韓国の家族を探すため、母国に帰国する。ところが、彼女を待ち受けていたのは、温かな家族の愛だけではなかったようで‥‥‥。
本作は、2017年のドラマ「力の強い女 ト・ボンスン」のスピンオフ。ナムスンは、前作の主人公ト・ボンスン(パク・ボヨン)の6親等という設定だ。本作第3話にト・ボンスン、ボンスンの相手役アン・ミンヒョク(パク・ヒョンシク)がカメオ出演し、前作ファンを喜ばせた。
天真爛漫(らんまん)なナムスンが織りなすドタバタ劇が楽しい。竹を割ったような性格で、正義感が強いナムスンに心洗われる。
一方、若くしてホームレスになった彼女の友人たち、詐欺師に身を落とす若者や新型麻薬を開発する悪の組織といった穏やかじゃない存在も見逃せない。貧富の差や薬物といった社会問題をエンタメに昇華させるあたりは、さすがだ。「ド・ボンスン」、財閥一家の秘密を描いたドラマ「Mine」(21年)の脚本を手がけたペク・ミギョンの腕が光る。
「弱い男もいれば、強い女もいる」というナムスンのセリフがいい。ナムスン一家の男性陣は気弱で優柔不断で、女性陣の言いなり。腕力だけでなく、メンタルも発言力も女性たちの方が圧倒的に強い。
こうした描写は、女性からは拍手喝采、男性の目には「情けない」と映るのだろうか。いやいや、いいかげん「女らしさ」「男らしさ」なんていう固定観念から解放されるべきでは? ナムスンの言葉は、ジェンダーにとらわれない「その人らしさ」を全肯定するものだ。当たり前のようで現実はそういかない絵空事かもしれないが、あっさりと言ってのけるナムスンがすがすがしい。
立場と年齢が違う女性たちの生き様を描き、力強いメッセージを提示
立場や年齢にとらわれない女性たちの生き様も見どころの一つだろう。
母親・グムジュ役のキム・ジョンウンは、最高視聴率57.4%を記録したドラマ「パリの恋人」(04年)のヒロイン役で知られる。2児の母親を演じる本作では、「江南のフィクサー」の異名を持つ、江南の質屋の代表を務める。道義心が強く、セレブが集うパーティーでスピーチをする際、「金持ちだけが住みやすい世の中ではなく、皆が住みやすい世を願って」と言って、財閥2世や3世の参加者たちを挑発する。
グムジュは質屋を営む傍ら、街で不穏な動きを察知すると、解決のため自ら現場に出向く。黒革のジャンプスーツ姿でオートバイにまたがり、事件を解決しに行くのが彼女のもう一つの日常だ。
公正な世の中を作るため、勧善懲悪に燃えるグムジュだが、子どもとの関係はやや微妙だ。ナムスンの双子の弟カン・ナムイン(ハン・サンジョ)は、何かとナムスンびいきのグムジュに不満を抱いてきた。息子との関係がどう展開するのかも気になるところだ。
祖母のキル・ジュンガンは、元・食肉業界の大物。牛のマークがついたランボルギーニのオープンカーを乗り回す。ある日、ナムインと義理の息子の喫茶店で働くバリスタ、ソ・ジュンヒ(チョン・ボソク)と出会い、恋に落ちる。ジュンヒが詐欺に遭い、高齢者を標的にする詐欺が横行していることを知り、ジュンガンの正義感に火が付く。
自力で財を成し、おばあちゃんになっても恋をし、怪力を使って市民の安全安心を守る――。3世代の女性たちの姿には、性別、肩書、年齢といった私たちを縛るものたちを吹き飛ばす、力強いメッセージが込められている。
Netflixシリーズ「力の強い女 カン・ナムスン」独占配信中