ディナー・イン・アメリカ © 2020 Dinner in America, LLC. All Rights Reserved.

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2021.9.23

時代の目:ディナー・イン・アメリカ さえないパンク、魂の叫び

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

風来坊のサイモン(カイル・ガルナー)が警察に追われて逃げ込んだのは、さえないいじめられっ子、パティ(エミリー・スケッグス)の家。パティは過干渉の両親に逆らえず、仕事も見た目も地味で、唯一自分を解放できるのはパンクバンド、サイオプスの曲を聞く時だけだ。実はサイモンは、サイオプスの覆面ボーカル、ジョンQだった。パンクを介してつながった2人が、サイオプスのライブに臨む。

パンクなボーイ・ミーツ・ガールでも、1970年代のロンドンを舞台にした「シド・アンド・ナンシー」の過激さとはほど遠い。米国の殺風景な郊外は、保守的で内向きで、冷めた空気が漂って、パンクのアナーキズムも空回りしがち。サイモン・アンド・パティの、微妙に間の抜けた道行きはオフビートな笑いとなる。

それでも、ぬるま湯的な日常に一人立ち向かうサイモンと、つられて覚醒するパティは、愛と自由を求めて精いっぱいの反抗を試みる。行き着く先は、破滅よりも希望。分断と孤立が進む中、2人の戦いにほんのり胸が熱くなる。アダム・レーマイヤー監督。1時間46分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(勝)