「そばかす」©2022「そばかす」製作委員会

「そばかす」©2022「そばかす」製作委員会

2022.12.16

「そばかす」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

チェリストになる夢を諦め、実家で暮らす30歳の佳純(三浦透子)。恋愛をしたいと思わずに生きているが、母親(坂井真紀)に無理やりお見合いをさせられてしまう。

他者に恋愛的にひかれないアロマンチック、性的にひかれないアセクシュアルを題材とした作品。恋愛至上主義の世の中で佳純は生きづらさを抱えながらも、周囲との交流や再会を通して自分はこのままでいいと一歩を踏み出す。

三浦はミニマムだが豊かな表現で、主人公の心の動きを伝えてみせた。オリジナルで作った「シンデレラ」の物語や「宇宙戦争」についてのおしゃべりなど、エピソードが有機的につながり、エンディングには佳純と一緒に駆け出したくなるような爽快感もある。脚本はゲイの青年の恋愛を描いた「his」を手がけたアサダアツシ。本作でも日常の場面を積み重ね、切実さとユーモアを絶妙のバランスで織り込んでいる。監督は劇団「玉田企画」を主宰し、脚本家としても活躍する玉田真也。1時間44分。東京・新宿武蔵野館、23日から大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(細)

ここに注目

恋愛や結婚に限らず、世間の常識から外れるには勇気が必要だが、佳純には同級生の真帆がいたように、理解し受け入れてくれる人は必ずいる。一歩踏み出したい人の背中をそっと押すような温かみにあふれた作品。エンドロールで流れる三浦の歌声も優しくて心地よかった。(倉)

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