「大綱引の恋」の一場面

「大綱引の恋」の一場面Ⓒ2020映画「大綱引の恋」フィルムパートナーズ

2021.5.06

「大綱引の恋」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

鳶(とび)の跡取り武志(三浦貴大)と韓国人研修医ジヒョン(知英)は、ある事件で出会い互いに好意を寄せ合う。その頃、武志の家では母(石野真子)が定年退職を宣言して家事を放棄、妹(比嘉愛未)や父らが頭を悩ませていた。鹿児島県薩摩川内市で420年続く「川内大綱引」を背景にしたラブストーリーで、佐々部清監督の遺作になった。

「チルソクの夏」「半落ち」「夕凪の街 桜の国」など市井の人々が懸命に生きる姿、男女や夫婦、家族の深い愛を丁寧に分かりやすく描いてきた佐々部監督らしさが十二分に発揮された。職人監督として多くのスタッフ、キャストから慕われた敬意と熱気がスクリーンから伝わってくる。とりわけ、地元に密着して撮った川内大綱引の勇壮なシーンは、松本若菜や朝加真由美、升毅ら出演者も綱引きと一体となり、青春のみずみずしさや豊かな情感にあふれている。地味だが俳優の芝居をきちんと撮り、感情の機微を積み重ねる演出もさえている。1時間48分。埼玉・イオンシネマ浦和美園、京阪神地区は近く公開。(鈴)

ここに注目

東京で挫折した武志の地元での再生や、父親との確執、母親の愛情。オーソドックスな物語を奇をてらわずに語り、映画黄金期のプログラムピクチャーのような誠実で手堅い作り。地味で意外性はなくても、地方の景色や祭りの興奮も適度に配される。ほっこりしたい方は、どうぞ。(勝)

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