どん底作家の人生に幸あれ  ©2019 Dickensian Pictures, LLC and Channel Four Television Corporation

どん底作家の人生に幸あれ ©2019 Dickensian Pictures, LLC and Channel Four Television Corporation

2021.1.21

どん底作家の人生に幸あれ!

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

文豪チャールズ・ディケンズの半自伝的小説の映画化だ。ビクトリア朝時代のイギリスが舞台。デイヴィッド(デブ・パテル)は継父の暴力に反抗し家から追い出され、ロンドンの瓶詰工場に送られる。青年になったデイヴィッドは最愛の母の死を知り、自分の人生を取り戻そうと工場を抜け出して伯母のベッツィ(ティルダ・スウィントン)の家に駆け込む。

ここまでは、まだまだ物語の序盤。デイヴィッドの半生を彩る風変わりな人物たち、友情や恋愛、貧困や嫉妬など怒濤(どとう)のような変幻自在の展開で飽きさせない。不遇な過去や倒産、駆け落ちなど一つ一つは深刻でも、コメディーセンスの良さ、明るい色調、登場人物のキャラクターのおかしさが勝るさりげない力技の演出が秀逸。デイヴィッドの成長物語ではあるが、全編を覆う穏やかな安心感、多くの人物を手際よく出し入れして全く混乱させない脚本のうまさも光る。アーマンド・イアヌッチ監督。2時間。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(鈴)

ここに注目

テンポよく進むストーリーと突き抜けたユーモア、愛すべき変人ぞろいの登場人物たち。そうした要素のおかげで悲壮感とは無縁。ディケンズってこんなに笑えるのかという仕上がりだ。主演のパテルをはじめ監督がこだわった多様な人種をキャスティングする試みには現代性も。(細)