毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
「悪い夏」©2025映画「悪い夏」製作委員会
2025.3.28
「悪い夏」 画面を満たす人間の業と底の見えない欲望
市役所職員の佐々木(北村匠海)は、先輩の高野(毎熊克哉)が生活保護受給者の愛美(河合優実)の弱みに付け込み肉体関係を強要していると知り、正義感の強い宮田(伊藤万理華)と愛美のアパートを訪ねる。しかし、事情を知った裏社会の金本(窪田正孝)は高野を脅迫し、路上生活者に生活保護を受給させ搾取しようとする。一方、金本の手下でドラッグ売人の山田(竹原ピストル)は愛美に佐々木を誘惑させようとする。
染井為人の同名小説の映画化。生活保護制度を食い物にする悪党と、善から悪に変貌する人間を小気味よく出し入れし、道徳観など吹き飛ばす向井康介の脚本が痛快だ。悲惨さや絶望、後悔といった心情さえも凌駕(りょうが)する人間の業と底の見えない欲望が、画面を満たす。ジェットコースターなみに雰囲気を激変させる北村の壮絶感、圧倒的な半グレ感で周囲を支配する窪田、こずるく立ち回る竹原など俳優陣も遊び心たっぷりに演じて人間臭さ満載だ。社会派から犯罪映画、終盤はドタバタコメディーと全員キャラの立った悪党ぶりが際立っている。城定秀夫監督。1時間54分。東京・新宿バルト9、大阪・T・ジョイ梅田ほかで公開中。(鈴)
ここに注目
叙情的な青春ものからスリラーまで幅広く手がける城定監督が、職人的手腕を発揮した。メリハリをつけた演出で犯罪劇を引っ張っていく。登場人物が全員集合する終盤のクライマックス、破綻寸前で落ちてくる黒い雨がお見事。かつてのプログラムピクチャー的な痛快作。(勝)