内田英治監督 撮影:田辺麻衣子

内田英治監督 撮影:田辺麻衣子

2024.2.27

インタビュー:内田英治監督「マッチング」 土屋太鳳の集中力、 佐久間大介は内面に分け入り嬉々として演じる

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鈴木隆

鈴木隆

今や出会い、結婚のきっかけとして世代を超えて浸透するマッチングアプリを物語の中軸に据えたサスペンススリラーである。現代の世相を反映したオリジナル脚本を書き、エンターテインメントに徹底した作品を撮りあげたのは「ミッドナイトスワン」(2020年)などの内田英治監督。映画化の経緯や題材の面白さ、主演の土屋太鳳や佐久間大介(Snow Man)の現場での意気込みなどを語った。
 


 

スカッとするスリラー、サスペンスに

マッチングアプリは人と人とが出会うツールとして、トラブルはあるものの多くの男女に利用されているという。内田監督が映画の素材として関心を持った理由を話す。「はやり出したのは7、8年前ぐらいからでしょうか。知らない人同士が出会うからミステリーの題材として面白いと思った。マッチングアプリを柱にした作品がすでにあるだろうと放置していたら、意外にないと分かり穴場と考えた。現代的だしあまり考えずにスカッと見ることができるスリラー、娯楽映画を作ろうとスタートした」

素材としては純愛やコメディーなど選択肢はあったが、なぜスリラー、サスペンス調の作品を選んだのか。「自分が知らないうちに危ない人が身近にいて、その人が思いもしない情報を持っている。今の時代はあらゆる所でそんなことがある。知らないうちに自分の情報をたくさん持っている人が周りにいっぱいいる。もう一つ、一番信用していた人が、最も信用できないという設定もおもしろいと考えた」。スリラーやサスペンスとして格好の題材というわけだ。
 
「マッチングアプリは怖いツール、という物語ではない」と意義づけは明瞭だ。凝った謎解きを前面に出すわけではない。「ミステリー小説が好きでよく読んでいた1980、90年代に比べ現在のミステリーは分かりやすい。よく言えばシンプル。映画も中学生が見ても理解できるように、なるべく分かりやすく作ったつもり。大人にしか分からないような複雑なミステリーにする気はなかった」と観客の裾野を広げて映画作りに取り組んだ。

 

出会いや結婚の超主流ツールになる

マッチングアプリを運用する会社の人、エンジニア、実際に使っている人、結婚式場の人などかかわる多様な人を取材。作品にリアルな感覚や出来事を浸透させた。「昭和生まれとしては元々距離感はあったが、周囲の人の話などを総合すると、考えていた以上にいいものだと感じた。スタッフにも利用して幸せな結婚生活を送っている人もいる。一方、ハードユーザーの取材では危ない部分も当然あることが分かった」。両極端の現状があることを把握し「優良企業ばかりならいいが、怪しげな会社もある。ユーザーが気をつけるしかない」。
 
ただ、今後についてはこう話す。「出会いや結婚の主流、中心的役割を果たすのではないか。いや、もうなっているかもしれない。人と人がリアルに接することは時代的にリスクが生じる。ならば、最初から安全が確保された人というのが(ある程度)分かっているアプリは超主流になっていくのでは」と語った。携帯電話の普及で恋愛映画の表現スタイルに大きな変化が生じたが「マッチングアプリでも(映画表現が)さらに大きく変わっていくのではないか」と推測する。
 

土屋の集中力、ピュアなアプローチにも感心

作品に話を戻そう。内田監督が撮影現場でとても驚いたことがあった。ストーカー役の佐久間大介である。「役者以上に役者的な反応がとても多かった。具体的には演出サイドとの話を希望し、役の内面について何度も聞いてきた。『僕はこう思う』といった意見のやり取りを何度も行った。この場面でどう演じるかではなく、このキャラクターはこの時『どういう気持ちか』と。どちらかといえば、ベテランの俳優が聞きそうなことで、昔の役者みたいだった」。テレビなどから発散される「彼の明るいイメージとのギャップが激しかった」という。

Snow Manのメンバーとして歌手やバラエティーの人気者が俳優もちょっとやってみたという感じは「一切なかった」ようだ。「芝居がすごく好きだと思う。イケメンとか普通の恋愛映画に登場する役柄というより、イメージしにくいような変わった役。その役にのめりこんで嬉々(きき)として演じてくれた。役を一生懸命に突きつめて芝居するタイプ」と感じた。「そもそも(売れっ子で)忙しいのに、手をぬくどころか、必死に役に没頭していた」と称賛、その将来性に期待を寄せた。

 
主演の土屋太鳳についても感心したという。本作の現場で初めて会った。「底抜けに純粋な人。気持ちがとても純朴で役に入りやすい。ピュアな状態でストーンと入ってくるから大変だったと思う。今回は特に、何度も恐怖感を抱かないといけない役で疲れたはずだが、ワンカット、ワンカットに集中して素晴らしかった」と佐久間同様、手放しで役者としてのスタンスを褒めたたえた。

 

サスペンスやスリラーの面白さとは!

「サイレントラブ」(24年)、「異動辞令は音楽隊!」(22年)、「ミッドナイトスワン」、「獣道」(17年)などほぼ1年に1作品程度コンスタントに撮ってきた内田監督。「ヒューマンドラマが続いているが、元々スリラーやサスペンスが好きで撮りたいと思っていた。いい人間を装っている悪い人間たちに興味があるから」

そうした映画のどこに面白さを感じるのか聞いてみた。「100%いい人間なんて当然いない。しかし、今の時代は100%いい人間か、100%悪い人間を求めている。極端にいいか悪いかで決めてしまいがちだ。その両方を持っている人間を描くには、サスペンスやスリラー、ホラーの作品が最適。正統派のヒューマンドラマでは、特にここ何年かは難しくなっている。『こういう人っているよね』と描いても、どっちかに分けたがる見方が強い」。人間をどちらかに当てはめようとする傾向を映画作りの中で実感している。
 

シリーズ化に意欲

内田監督は息つく間もなく続ける。「サスペンスやスリラー、ホラーは何かの事象を利用していろんな人たちの〝顔〟を娯楽ありきで描写できる。自分もそうした映画を見て育ってきた」。映画の序盤にビリー・ワイルダー監督の「サンセット大通り」(1950年)のワンシーンが登場するのもうなずける。指摘するとニヤッとして「こうした映画が好きな映画ファンは高齢化が進んでいて、若い世代に受け継がれていない。今の若い人なりの映画の世界にも届くような映画作りをしていきたいと常々模索している」。
 
さらに、この作品の題材を選んだ時点では、周囲にいろいろ聞きながら観客を意識して作り始めたが「途中からはかなり自分の思い通りに作ることができた作品」と自信をのぞかせた。題材の取材などで多くの刺激やヒントを受けたこともあり「続編の構想もできている。パート3ぐらいまで撮りたい」とシリーズ化への意欲を見せた。

全国で公開中。

ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

カメラマン
田辺麻衣子

田辺麻衣子

たなべ・まいこ 2001年九州産業大学芸術学部写真学科卒業後スタジオカメラマンとして勤務。04年に独立し、06年猫のいるフォトサロンPINK BUTTERFLYを立ち上げる。企業、個人などさまざまな撮影を行いながら縁をつなぐことをモットーに活動中。

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