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2023.3.12
「現代は情報爆撃。本を読んで考えることが必要だ」 「丘の上の本屋さん」レモ・ジローネ:インタビュー
ミニシアターを中心にヒット中の「丘の上の本屋さん」で、古書店の名物店主を演じたレモ・ジローネ。50年の演技歴を持つ、イタリアのベテラン俳優だ。娘は在日イタリア大使館など通訳の仕事をしたり、大学で教えたりしているとか。「2度ほど日本に行ったことがある」というジローネがオンラインで、作品への思いや読書の楽しさなどを語ってくれた。
イタリアの古書店に集う人々
イタリアの風光明媚(めいび)な丘の上にある小さな古書店は、リベロが1人で切り盛りしている。店先で立ち読みしていた少年エシエンと、本を通じて親しくなっていく。エシエンはアフリカ・ブルキナファソからやって来た。リベロが漫画の「ミッキーマウス」から始め、「ピノッキオの冒険」「イソップ寓話(ぐうわ)集」「星の王子さま」「白鯨」と書物を手渡すと、エシエンは次々と読破して、素直な感想をリベロに伝える。古書店には隣のカフェで働く気のいい青年、ゴミ箱をあさって本を売りに来る移民労働者、女主人に頼まれてフォトコミックを探す家政婦、初版本の収集家など多様な常連客らが訪れ、物語のアクセントにもなっている。
ジローネがこの作品にひかれた理由を説明する。「文化を通じて自由を得ることが語られている。読書を通じて幸せを得ることもできる。物事を理解し、知識を得ることは自分を守ることにもつながる。読書によって人から何らかの条件などを受け入れざるを得ないことも少なくなる」
ジローネはアフリカで生まれ、自身のことも思い出したという。「アフリカの人が置かれている状況を何年も見てきた。この作品には人種差別に対するメッセージも込められている」と話す。
アフリカや中東などから多くの移民が来るイタリア。作品自体は老人と少年のハートウオーミングなお話だが、背景には移民が置かれた厳しい状況がある。「イタリアはアフリカからの移民が最初に来る国の一つ。個人的には、来た人はみんな受け入れるべきで、制限を設けるべきではないと思う。来た人たちがやってくれる仕事もたくさんある」と移民の受け入れに肯定的だ。一方で、移民を搾取して利益を上げている犯罪組織を批判した。
「丘の上の本屋さん」©2021 ASSOCIAZIONE CULTURALE IMAGO IMAGO FILM VIDEOPRODUZIONI
考えることの大切さ説く
映画に話を戻そう。リベロは一癖も二癖もある客を相手にうまく立ち回っている。ヒトラーの「わが闘争」の初版本を探している男や発禁本を探す神父などもやってくる。「私はリベロに近い人物。自分らしく人間味のある部分を出せたと思っている。人間には良い面と悪い面があるが、リベロは良い面を出せる役だ」
リベロはエシエンに、本を読んだ後でじっくり考えることの大切さを説いていく。あふれかえる情報の中、自分の力で考えることがなおざりにされがちな現代の風潮に対して示唆的だ。
「スマホを使い、ワッツアップなどSNSをやり、新聞もネットで読む時代。私は紙の新聞をバールで読む少数派だけど」とニヤリ。「私たちは情報に爆撃されているかのようだ」と言って、警鐘を鳴らす。
「丘の上の本屋さん」©2021 ASSOCIAZIONE CULTURALE IMAGO IMAGO FILM VIDEOPRODUZIONI
役を作り上げるにも時間が必要だ
「何度も読み直す、考え直すことはとても重要。映画もそうだが、いい映画を見直すこと、考えることはあなた自身を変えてくれるかもしれない。違った意味を探せるかもしれない。本も映画も同じだ。それが、今は昔よりずっと難しい。私たちは常に走らされているからね」
「ちなみに、私の仕事は役を作り上げることだが、舞台の時はより時間をかける。何日間か演じているうちに内容が深くなっていくんだ。何事にも時間が必要で、映画でも同じ」とベテランらしく演技の熟成について体験的に語った。「役者という仕事は世界で一番すてきな仕事だよ」
作品にちなみ最も大事にしている本を聞いた。「1冊なんて無理だよ。ダンテの『神曲』『宝島』、シェークスピアの何冊か、ドストエフスキーの作品……」と、とどまることなくタイトルを挙げた。やはり、映画や演劇になった作品が目立つ。最後に「三島由紀夫も好きだよ」と付け加えた。
ジローネは「ヘヴン」(2002年)、「夜に生きる」(16年)、「フォードvsフェラーリ」(19年)などに出演。最新作「我が名はヴェンデッタ」(22年)がNetflixで配信中。