「フラッグ・デイ 父を想う日」 © 2021VOCO Products,LLC.jpg

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2022.12.23

「フラッグ・デイ 父を想う日」 されど貴き家族の記憶

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

これまで「イントゥ・ザ・ワイルド」などを監督してきたショーン・ペンが、自身のキャリアで初めて監督と主演の両方を務めた作品。長年温めてきたという、実話を基にした物語を映画化した。1992年、アメリカ最大級の偽札事件の犯人であるジョン・ボーゲル(ショーン・ペン)が、裁判を前に逃亡。娘のジェニファー(ディラン・ペン)は父と過ごした日々を思う。父が農場を購入し、荒れ果てていた母と弟との暮らしに笑顔が戻った頃。借金を背負い、酒に溺れた母から逃げ、再び父と恋人とともに過ごしたにぎやかな毎日。16㍉フィルムで撮影された過ぎ去りし日々は甘くノスタルジックで、色あせない思い出の貴さが痛いほど伝わってくる。

娘が成長していくにつれて次第に変化していく、かつては自分の英雄であり王子だった父親に対する複雑な思い。けれどもショーン・ペンはその真ん中で変わらぬ愛情を描き出し、生活力がなく山っ気がある父親役をどこか憎めない男として演じている。実の娘、ディランをキャスティングしたことで、父と娘の物語により親密さが生まれたことは想像に難くない。1時間52分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(細)