「長屋紳士録」より(カンヌ国際映画祭提供)

「長屋紳士録」より(カンヌ国際映画祭提供)

2023.5.22

カンヌの〝狭き門〟通った小津安二郎2作品 ベンダースも鑑賞

第76回カンヌ国際映画祭が、5月16日から27日まで開催されます。パルムドールを競うコンペティション部門には、日本から是枝裕和監督の「怪物」、ドイツのビム・ベンダース監督が日本で撮影し役所広司が主演した「パーフェクトデイズ」が出品され、賞の行方がきになるところ。北野武監督の「首」も「カンヌ・プレミア」部門で上映されるなど、日本関連の作品が注目を集めそう。ひとシネマでは、映画界最大のお祭りを、編集長の勝田友巳が現地からリポートします。

勝田友巳

勝田友巳

開催中の第76回カンヌ国際映画祭の「カンヌ・クラシックス」部門で、小津安二郎監督の2作品のデジタル修復版が上映された。多くの映画祭が世界の古典的名画を上映する部門を設けているが、カンヌはじめベルリン、ベネチアの3大映画祭ではこの部門も狭き門。その中でも小津は、〝常連〟で、どこにいっても歓迎される。今年は小津の生誕120年、没後60年の節目の年。世界中で予定される周年企画のスタートとなった。
 

「長屋紳士録」より(カンヌ国際映画祭提供)

「長屋紳士録」「宗方姉妹」デジタル修復で美しく

今回上映されたのは、「長屋紳士録」(1947年)と「宗方姉妹」(50年)の2作品。18日の上映会場はほぼ満席で、小津人気の高さをうかがわせた。小津への敬愛が深くドキュメンタリー「東京画」も監督したビム・ベンダース監督も姿を見せ、2本を続けて鑑賞。「宗方姉妹」は「初めて見た」という。
 
小津は03年12月12日に生まれ、60年の同じ日に亡くなった。生涯で54本の作品を手がけたが初期作品は失われ、現存するのは37本。本拠地・松竹だけでなく、大映や東宝でも撮り、「宗方姉妹」は新東宝の映画である。
 

「宗方姉妹」より(カンヌ国際映画祭提供)

趣異なる2作品

松竹は10年ほど前からデジタル修復に力を入れ、小津作品は「東京物語」「麦秋」などこれまで10作品をよみがえらせ、カンヌをはじめベルリン、ベネチアの3大国際映画祭で披露してきた。「長屋紳士録」は小津が戦地から帰国して初めて手がけた作品。親とはぐれた少年と、彼を預かることになった下町の長屋の女性との交流を描いた人情喜劇だ。
 
一方「宗方姉妹」は、小津が初めて松竹の外に招かれ、唯一新東宝で撮った。田中絹代を主演に迎え、高峰秀子、上原謙らが出演。不幸な結婚生活に苦しむ主人公と自由に生きる妹を対比させている。ローアングルの構図など映像は小津調でも物語の趣は異なって、小津作品の幅を示した上映となった。両作とも映像や音響が細部まで明確になり、新作同様の鮮やかさ。
 

「宗方姉妹」より(カンヌ国際映画祭提供)

文化保存とビジネスと

映画会社にとって古い映画の修復は、文化遺産の保存と同時に、美しくよみがえった作品を映画祭や動画配信などに新たに販売するというビジネスの側面も持っている。修復には国内外の行政機関や団体からの支援もあるが、時間も費用もかかる。デジタル技術の進歩で修復は各地で進められ、華やかな披露の場を求めている。世界中から配給業者や映画祭関係者が集まる3大映画祭は、かっこうの舞台。小津といえども特別枠ではなく、手続きを踏んで応募し、採用されたという。今回の同部門は、ジャン・リュック・ゴダール監督の「軽蔑」やアルフレッド・ヒチコック監督の「白い恐怖」などが選出された。「カンヌでの披露は訴求力も大きい。ギリギリまで連絡がなく、ヒヤヒヤしました」と松竹の小山芽里・海外版権室長。

 
小津安二郎監督(カンヌ国際映画祭提供)

上映希望届き人気実感

今回の上映では、すでに買い付けのオファーや映画祭からの上映の打診があったという。「小津の大ファン」とわざわざ訪ねて言いにきた自身の作品を映画祭に出品した監督もいたとか。「小津の人気を実感している」と小山室長。
 
100年以上のアーカイブを持つ松竹は、これまで年に2、3本ずつ修復を進め、映画祭で上映してきた。21年のカンヌでは篠田正浩監督の「夜叉ケ池」の修復版も上映されている。小津の周年企画は、米国での全作上映など国内外で続く。「旧作は宝物。保存目的というだけではなく、上映が増え、新たな発見につながる意義のある取り組みと思う」と強調していた。

関連記事

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

この記事の写真を見る

  • 「長屋紳士録」より(カンヌ国際映画祭提供)
さらに写真を見る(合計1枚)

新着記事