2021年に生誕90周年を迎えた高倉健は、昭和・平成にわたり205本の映画に出演しました。毎日新聞社は、3回忌の2016年から約2年全国10か所で追悼特別展「高倉健」を開催しました。その縁からひとシネマでは高倉健を次世代に語り継ぐ企画を随時掲載します。
Ken Takakura for the future generations.
神格化された高倉健より、健さんと慕われたあの姿を次世代に伝えられればと思っています。
2022.11.30
「映画館のあった風景」第5回 北海道・南富良野町編 富良野への旅のすすめ
360度展望ができる北落合 石狩山地十勝岳連峰 上ホロカメットク山と下ホロカメットク山
北海道のほぼ中央に位置している南富良野町は、四方を豊かな森林で囲まれています。
北は富良野、南はトマム・サホロのリゾート地、そしてちょうど真ん中には、空知川をせき止めて67(昭和42)年に多目的ダムとして造られたかなやま湖(=金山ダム)があります。
中島みゆきさんの楽曲「糸」をモチーフに、平成元年北海道生まれの二人が織りなすラブストーリー、映画「糸」(20年公開)では、主人公の漣と葵の子供時代の重要なシーンが、雪深いかなやま湖畔で撮影されていました。
富良野風景
私が、北海道南富良野町を訪ねるのは数年ぶり。
旭川空港からレンタカーを運転して南に向かいました。
急ぐ後続車を「お先にどうぞ」と譲る、なんという心のゆとり。
制限速度40~50キロメートルを一度も超えることなく、目の前に広がる青空と白い雲を相棒に、コロナ禍の閉塞(へいそく)性を突き破るに十分な解放感を味わいました。
生気あふれる風に吹かれて“くちびるに歌を持て” さながら「モダン・タイムス」のSMILEを口ずさんでいました。
♬ Smile, though your heart is aching
Smile, even though it's breaking
When there are clouds in the sky
You'll get by
笑顔で 心が痛むときも
笑顔で 心が折れそうなときも
空に暗雲が立ち込めていても
なんとかなるさ・・・・・・
空知川 落合でのラフティング
南富良野町は、たっぷりの太陽を浴びて育てられるジャガイモやニンジンの産地として、また、その種芋の産地としても有名です。
森には、炭坑内の坑木に利用される唐松(落葉松・カラマツ)、パルプ用材や建築資材に適している椴松(トドマツ)や蝦夷松(エゾマツ)など、30年以上かけて大切に育てられる林業も盛んです。
空知川でのラフティング、かなやま湖での釣りやカヌー、キャンプなどアウトドアのアクティビティーを体験できます。
かなやま湖畔に建つログホテルラーチは、その名の通り、カラマツ=LARCH(ラーチ)がふんだんに使われた長期滞在も可能な宿泊施設。
ログホテルラーチ 写真提供:ログホテルラーチ
一つの役目を終える幾寅駅・変化し続ける町
幾寅駅
幾寅駅は、北海道官設鉄道の駅として、1902(明治35)年12月6日に開業し、21(大正10)年に線路名が根室本線と改称されました。
根室本線は、北海道の道東・根室から、道央・滝川を結ぶ大動脈として、21年に完成しています。
南富良野町は、約9割が森林。
大正中期に国自らが国有林を伐採して、その木材を輸送し、市場に出す直営生産方式が取り入れられたことから、根室本線開通年、幾寅―幾寅久住駅の間には、その輸送手段として森林軌道(鉄道線路)が敷設されました。
丸太をトロッコに積載し鉄路を馬で引かせて、幾寅駅裏の土場(貯木場)まで搬送し、貨車に積み発送するのです。28(昭和3)年までその任を担っていました。
森林軌道・馬鉄
その後、33年2月に駅舎が全焼し、6月に南側から北側に移転して再建されたのが、現在の幾寅駅です。
87年、国鉄分割民営化によりJR北海道の駅となり、99年に「鉄道員」の舞台 “幌舞駅” となりました。
ところが、16(平成28)年8月31日、台風10号の記録的な大雨により空知川が決壊し、市街地に甚大な浸水被害を齎しました。鉄道の路盤や橋梁の流出などの被害が出ましたが、全面復旧もままならず、残念ながら運転再開がなされないまま、22年富良野駅から新得駅の部分廃止が決定されました。
根室本線は、滝川―富良野間と、新得―根室間に分断されることになったのです。
南富良野町 高橋秀樹町長
22年4月に誕生した16代町長高橋秀樹さんは、
「私も、学校に通う時、幾寅駅を利用させていただいた一人です。駅としての役目を終えることになったのは本当に残念としか言いようがありませんが、嘆いてばかりはいられません。
この町のめぐみ、太陽と、森と、湖。
こんなに水と空気がおいしいところは、なかなかないと思っています。
『鉄道員』のロケ地となった幾寅駅には、23年たったいまでも、全国からファンの方々がお越しくださっていることに感謝しながら、新しくなった道の駅など、町の魅力を発信し続けていきたいと思っています」と、力強く話してくださいました。
串内牧場
22年4月27日、道の駅南ふらのが大きくリニューアルオープンされ、北海道最大級規模の広さのアウトドアブランド、モンベルがオープン。その道の駅の近接地に、客室数78のフェアフィールド・バイ・マリオット・北海道南富良野が6月23日に開業しました。
道の駅 南ふらの 左:道の駅 右:モンベル&飲食店
支配人の富山裕史(とみやま・ひろし)さんは、
「このホテルには、レストランをあえて併設せず、すぐそばにある道の駅をはじめとして、町中にあるたくさんのレストランで、地元の味を楽しんでいただき、お客様に地域の魅力を知っていただくことをコンセプトにしています。
近隣のアクティビティーを楽しんでいただくための起点としてなど、リーズナブルにシンプルステイしていただきたいと思っています」と、話してくださいました。
フェアフィールド・バイ・マリオット北海道南富良野 支配人 富山裕史さん
フェアフィールド・バイ・マリオット・北海道南富良野
私が、南富良野を訪ねたすぐあと、22年9月19日に北海道旭川市のディノスシネマズ旭川が閉館しました。
最後の上映は、「鉄道員」「仁義なき戦い」「SING/シング」の3作品。
この映画館に携わられて17年、当時の支配人福井智絵さんに、何故「鉄道員」を選ばれたのかをお尋ねしたところ、
「北海道で撮影された作品であることと、幅広い年代層に見ていただけると思ったからです。お陰様で本当にたくさんの方にお越しいただけました」とお答えくださいました。
座談会に参加してくださった大宮さんの一言が思い出されました。
「昔はさ、みんなで映画に拍手した時代だったのさ、感動した!」と。
映画を見る環境は、時代の流れとともに映画館を離れ変化し続けていくのだと思いますが、1本の映画と出合い、心動かされる不変性は決してなくなるものではないことを信じたいと思います。
今回も、時代や地域への郷愁と町の歴史について、とても興味深いお話を伺うことができました。
座談会の世話役を快くお引き受けくださいました佐藤茂さん、ご参加くださいました、佐藤圭子さん、後藤健寿さん、後藤治子さん、川村俊子さん、史跡マップを詳しくご解説くださいました山名賢一さん、幾寅劇場の貴重な写真をご提供くださいました大宮博さん、南富良野町役場西川達哉さん、南富良野まちづくり観光協会岩永かずえ理事長、小野寿樹事務局長、小林茂雄理事、ふらの観光協会の野村守一郎さん、佐藤忠幸さん、東映の稲本千香さん、本当にありがとうございました。
2022年11月30日
「南富良野に雪が舞ってきています。今年も、幾寅駅が『幌舞駅』への雪化粧をし始めました!」と、南富良野まちづくり観光協会の小林さんが、今年もご連絡をくださいました。
*イラスト 梅田正則プロフィル
1948年新潟生まれ。テレビ・映画美術監督。
テレビドラマ「北の国から」「踊る大捜査線」「ロングバケーション」「これから~海辺の旅人たち~」(主演:高倉健)、「若者たち2014」ほか数多くの作品の美術監督をつとめる。2022年、実写世界からアニメに挑戦。69~74歳まで6年かけて「ケンタのしあわせ」(3分55秒)を、梅田正則監督作品としてついに完成させた。