第96回アカデミー賞授賞式は、3月10日。コロナ禍の影響に加え大規模ストライキにも直撃されながら、2023年は多彩な話題作、意外な問題作が賞レースを賑わせている。さて、オスカー像は誰の手に――。
2024.3.11
〝日本的〟表現追求でオスカー制覇 「ゴジラ-1.0」「君たちはどう生きるか」 第96回アカデミー賞
10日(日本時間11日)に授賞式が行われた第96回アカデミー賞で、日本映画「ゴジラ-1.0」が視覚効果賞、「君たちはどう生きるか」が長編アニメーション映画賞を受賞した。2作とも、それぞれに「日本的」な映画作りを追求し、物量に勝るハリウッドの牙城を崩し、快挙を呼び込んだ。
「ゴジラ-1.0」©2023 TOHO CO.,LTD.
「低予算」日本映画が超大作しのぐ迫力
日本映画の視覚効果賞は初めて。コンピューターグラフィックス(CG)が主体の視覚効果は資金と手間をかけるほど精密になる。近年はハリウッドのスタジオが世界市場に向けた超大作に巨額の製作費を投じる傾向が強まり、アカデミー賞でも独壇場。日本映画にとってもっとも入り込む余地のない分野だった。
「ゴジラ-1.0」の製作費は15億円程度と見られ、ハリウッドからすれば超低予算。今回の他の候補作も、「ミッション:インポッシブル デッドレコニングPART ONE」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」「ナポレオン」と、巨額の製作費を投じたハリウッド大作が並んだ。〝低予算で大ヒット〟とされた「ザ・クリエイター/創造者」ですら、「ゴジラ-1.0』の10倍近い8000万ドルと言われる。
日本の特撮は、俳優が着ぐるみに入ったりミニチュアのセットで撮影したりと、限られた製作費の中で工夫を凝らし、独自の発展を遂げてきた。しかし近年は、日本でもデジタル技術が向上し、特撮の味わいとCGとの融合が進む。その先頭にいるのが山崎監督と白組だ。
「ゴジラ-1.0」について語る山崎貴監督=2023年11月、手塚耕一郎撮影
「ゴジラ」熱望山崎監督 技術と経験蓄積
山崎貴監督は白組でCG制作を手がけた後、「ジュブナイル」(2000年)で監督デビュー。ゴジラ映画の監督を熱望する一方で「満足のいく技術で」と時機を待っていた「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズで昭和の東京を再現し、「続・三丁目の夕日」の冒頭には短い時間でもゴジラを登場させた。第二次世界大戦を題材とした「永遠の0」(13年)で航空機、「アルキメデスの大戦」(19年)では海上の軍艦を映像化。1作ごとにCG技術を開発してきた。
第1作が作られてから70年の記念作品となった「ゴジラ-1.0」で、「満を持して」登板。約20年の間に蓄積した技術と経験を駆使し、ゴジラや海の波の形態、軍艦や戦闘機の動きをリアルに表現し、集大成ともいえる作品となった。
映画の特殊効果は19世紀末の映画草創期から取り入れられ、技術の進歩とともに発展してきた。豊富な物量で最先端を切り開いてきたのがハリウッド映画だ。21世紀に入り、高度なデジタル技術と豊富な資金力で他を寄せ付けなかった。一方で、〝何でもあり〟の映像が肥大化し、物語が大味になった傾向も否めない。「ゴジラ-1.0」は敗戦後の日本で、帰還兵が強大な敵に打ち勝って自信を回復する、力強い人間ドラマともなっている。
米国での公開で日本映画として記録的なヒットとなったのも、そうした感動的なドラマの要素も要因に挙げられる。今回の受賞は、数百億円をかけた大作に負けない迫力の映像を独自に作り出したことへの、米国の驚きと称賛の証しだろう。
「君たちはどう生きるか」©︎2023 Studio Ghibli
手描きアニメで独自の境地
「君たちはどう生きるか」も、日本的な作品だった。宮崎監督が13年の引退宣言を撤回し、約7年をかけて製作した、自伝的要素を込めたファンタジー。異世界に迷い込んだ子供の奇想天外な冒険というこれまでの宮崎アニメの骨格を踏襲しながら、時に不可解。分かりやすさを優先するハリウッド作品とは異なり、難解とも評された。ところが昨年12月、米国で公開されると週末興行成績で1位になるなどヒットする。
今回の長編アニメ映画賞候補は「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」「マイ・エレメント」など、CGを多用し新たな映像表現に挑んだハリウッド作品が並んでいた。その中で「君たちはどう生きるか」は、宮崎監督が従来通り手描きの線と絵にこだわって、ディズニーに始まる米国アニメを原点とした伝統的な手作りアニメの表現を極めた作品だ。
鈴木敏夫プロデューサーは「米国で聖書の物語を題材とした多くの大作が作られてきた影響があるのではないか。『君たちはどう生きるか』は米国の影響を色濃く受けていると思う」と推測した。またアオサギから人間が出てくる表現など「手描きでしかできない面白さ」も指摘した。80歳を超えてなお創作意欲が衰えず、新たな表現に挑み続ける宮崎監督ならではのオスカー受賞だが、日本アニメにとってもさらなる可能性を示したといえそうだ。
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