毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.11.04
「ボクたちはみんな大人になれなかった」
テレビの美術制作会社で働く46歳の佐藤(森山未來)は、かつての友人、七瀬(篠原篤)との再会をきっかけに、かおり(伊藤沙莉)と過ごした日々を思い出す。ウェブ連載中から話題を呼んだ、燃え殻による同名ベストセラー小説を映画化。2020年に過去のエピソードを挟み込む構成で、時間は15年から1995年へとさかのぼっていく。
忘れられない恋を彩るのは、小沢健二の音楽、WAVEの袋、シネマライズなど90年代のカルチャー。美術や小物などを丁寧に作り込んだ描写が続き、懐かしさで胸が締めつけられる観客も多そうだ。一方で文通からSNSへとツールが変わっても、他者とのつながりを求める普遍的な感情もすくいとられている。監督は数々のCMを手がけてきた森義仁。思い返せば気恥ずかしくはあるが、あの頃があったからこそ今まで生き延びられたと思える時間を、エンディングに向けて肯定的に描き出した。劇場公開と同時にネットフリックスで全世界配信。2時間4分。東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋ほか。(細)
ここに注目
ラフォーレ原宿、タワーレコード、ポケベルなど40代後半がドンピシャだが、世代を超えて若き日へのノスタルジーとセンチメンタルな恋にいざなう。どっぷりと浸り、追慕に身を焦がすもよし。それぞれの時代の空気や感触、風景をかみしめ、明日を生きる応援歌にしたい一作。(鈴)