愛のまなざしを (c) Love Mooning Film Partners

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2021.11.04

この1本:愛のまなざしを 亡き妻巡り渦巻く感情

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)。

精神科医の貴志(仲村トオル)は妻の薫(中村ゆり)を亡くした喪失感から逃れられない。医師としては優秀だが、薫の亡霊と対話して自分を責め続け、精神安定剤を手放せない。貴志の元に、感情が不安定な綾子(杉野希妃)が患者として現れる。孤独を抱え、いびつな異性関係しか築けない。2人は同じ喪失の痛みを持つと知り、互いを求め合うようになる。しかし綾子は、やがて貴志を拘束し我が物顔で行動し始めた。

担当医と患者の立場だった2人の、支配と被支配の力関係が逆転する心理劇――。ではあるのだが、一筋縄ではいかない。新たな登場人物が現れ、交錯する視線の数が増えるごとに、貴志と綾子の人物像が変わり、関係性が交錯してゆく。

貴志には一人息子がいて、同居する薫の両親が面倒を見ている。貴志は息子を見れば薫を思い出すと、家に帰らない。息子の冷ややかな視線が、貴志の病理を映し出す。薫の弟茂(斎藤工)は、姉を死に追いやった貴志を憎んでいた。綾子は薫に捕らわれた貴志を我が物にしようと茂に取り入って、薫の死の真相を聞き出した。

「Unloved」「接吻」の、万田邦敏監督の新作である。これまでも男女の愛憎がもつれ合うドラマを、鋭い筆致で描いてきた。情念に分け入って血と肉をつかみ出すよりも、冷徹に関係性を解剖してみせる。この作品では、中心にいるのは不在の薫だ。貴志と綾子と茂が、薫を通して憎み合い、愛し合う。物語は二転三転させる仕掛けを張りめぐらせて、緊迫感が途切れない。

地下にある診察室も貴志の家の居間も、階段はあるが窓がない。閉鎖された空間で渦巻く感情は、愛か憎しみか次第に判然としなくなる。理屈が勝ちすぎていささか窮屈なところはあるものの、凝縮されたスリラーでありラブストーリーである。1時間42分。12日公開。東京・ユーロスペース、大阪・テアトル梅田ほか。(勝)

ここに注目

「私を守ってくれる人はあなただけなのよ」とすがりついては毒を吐く女と、優柔不断にうろたえては苦悩する男。愛を渇望し、心の安らぎを求めているという点で、実は似た者同士の2人が織りなすサスペンス劇だ。堂々巡りのやりとりが続く会話シーンにはダレを感じたが、貴志の背後からぬーっと伸びてくる亡き妻の白い手の艶(なま)めかしさ、出口なき牢獄(ろうごく)を連想させる地下道のイメージに魅了されずにいられない。現実逃避や疑惑まみれの話なのに、最後まで見届けると人間のピュアな本質に触れたような手応えが残る不思議な映画だ。(諭)

技あり

山田達也撮影監督は込み入った心理劇を、所作を決めて撮った。薫の亡霊が登場する場面は見応えがある。貴志は診察室で、精神安定剤を多量に飲み、中央の明るいテーブルにコップを置いて薫としゃべり始める。照明は最初、3発。壁の絵に暖色系の光、壁際の仕事机と貴志を照らす2発は青白色だ。光質の違いで異界を思わせる効果か。薫が貴志を責めるのを、回り込み移動や、アップからアップへのパンで見せる。薫の頭が切れ気味の最後のバストは、上からの光がほおに落ちて柔らかく全体に回り、瞳も光り上出来。撮り方が多彩だ。(渡)

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