「チェリまほ THE MOVIE 30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」

「チェリまほ THE MOVIE 30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」

2022.4.08

映画の推し事:「チェリまほ THE MOVIE 30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」 至高のBL映画が、腐女子の私に生きるヒントをくれた 青山波月

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

青山波月

青山波月

 繁殖率急上昇、BLのとりこになる腐女子たち



私は腐女子である。ボーイズのラブが大好きだ。初っぱなから何の暴露やねん。と、お思いだろうが、今回はただただ、私の大好きなBL作品への愛を語り、その魅力を少しでもお伝えしようと思う。覚悟して読んでいただきたい。
 
「ボーイズラブ」、略して「BL」。男性同士のラブストーリーを描いた作品を「BL作品」と呼び、そんなBLを好み、鑑賞することで癒やされる私のような女子たちが「腐女子」である。美少年の恋愛をにやけ顔で眺めてキュンキュンする。普通にキモいとよく言われる。

しかし近年、女子の間でのBL人気は右肩上がりで、腐女子の繁殖率は急上昇している。BLの何が、女子をそんなにとりこにしていくのか。その理由は、実は自分でも全然わからない。ただ一言言えるのは、彼らの間に生まれる強い絆で成り立った信頼関係が、私はとてもうらやましい。
 


チェリまほ 「この世の萌えの集合体」

映画「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」。タイトルからインパクトがあるこの作品は、「チェリまほ」として親しまれている同名の人気コミックが原作だ。2020年10月に実写ドラマ化された。私はドラマ「チェリまほ」に、「この世の『萌(も)え』の集合体」と勝手に代名詞を付ける程の大ファンだった。待ちに待った映画版もやはり、腐女子の期待を裏切らない至上の作品だった。
 
30歳まで童貞を貫き、人に触れると心が読めるという魔法が使えるようになってしまった、さえない会社員安達(赤楚衛二)と、同期でイケメン、スマートなエリート社員黒沢(町田啓太)。ドラマでは、ひょんなことから黒沢の心を読んだ安達が、黒沢は実は自分のことが好きだと気付いたことをきっかけに2人の距離が近づいた。
 
映画版では、無事黒沢と結ばれた安達が、童貞卒業とともに魔法使いも卒業したかと思いきや、まだ心を読める能力は健在のまま始まる。2人がラブラブな日常を送るのもつかの間、安達に転勤話が持ち上がる。安達は今まで以上に仕事に精を出すのだが、その分カップルとしてのすれ違いも出てくる。
 
ある意味ラブストーリーの定番の展開だが、なぜかこのカップルだと「まあ君たちなら、一生一緒にいるでしょ」と安心して見ていられるのだ。もちろん実際の男性同士の恋愛を知っているわけではないので、こちらの願望というか妄想も入ってしまっているのだろうが、もう一つの大好きなBL作品「きのう何食べた?」のカップルを見ていても、同じように感じる。
 
日常を大事にし、お互いに感謝して生活している感じがすごく伝わってくるのだ。どちらの映画にもよく出てくる食事シーン。高級な食材を使っているわけでもない、至って普通の料理が並ぶテーブルを挟んで向き合い、ニコニコ仲良く食べる2人。なんとキュンキュンすることか。萌えでしかない。お腹(なか)は空くが、心は満たされるのである。
 

攻めと受け、相性抜群の最高カプ 黒沢×足立

BLには「攻め」と「受け」という言葉がある。一応アイドルの私があまり説明しすぎるのもはばかられるため簡潔に説明すると、男女関係で言う男性側が攻めで、女性側が受けだ。「チェリまほ」の場合は攻めが黒沢で、受けが安達にあたる。この攻めと受けの相性というのが、また腐女子心をくすぐる一つのスパイスで、黒沢×安達は最高のカプなのだ(カプはカップルの略)。
 
年齢=彼女いない歴だったさえない安達のことを好きになるのが、まさかのイケメンエリートの黒沢。この時点で「何の少女漫画ですか?」という展開なのだが、さらに萌えるのが、いつもスマートだった黒沢が大好きな安達のことになると、「え、安達のヲタクですか?」と気持ち悪いくらいに安達にデレッデレになること。安達が作ってくれた不細工なオムライスを、もったいなくて食べられないと駄々をこねるほどの溺愛ぶりだ。そして、オールウエーズ完璧だった黒沢から、もはや醜態と呼べるくらいの愛を与えられた時の安達の困惑ぶりも、可愛いのなんの。
 
サブカップルの、安達の親友の柘植(浅香航大)と柘植の家に来る配達員、湊(ゆうたろう)も、負けず劣らず萌える。年下ツンデレ系男子の湊に振り回される柘植が、愛(いと)おしくて愛おしくて。若い分未熟なところがある湊を優しく諭す父親のような柘植の姿も、恋愛経験がない故に恋愛のことになると湊にリードされている柘植の姿も、全て尊い。湊が可愛すぎて、思わず「きゅん」と声に出してときめいてしまう柘植のヘタレぶりには笑わずにいられない。
 
腐女子というものは、〇〇系男子と〇〇系男子が攻めと受けだったら……なんて妄想してしまうのが性なんだが、「チェリまほ」に出てくるのは、まさにその妄想をかなえてくれる黄金比カップルであることは間違いない。


 

進路に焦る私に、安達がくれたアドバイス

安達を演じる赤楚さんの可愛さと、黒沢を演じる町田さんのギャップ萌えに悩殺されながら、尊さを嚙(か)みしめる至高のBL作品「チェリまほ」。BLの魅力が満載なのもさることながら、最大のポイントは「究極のポジティブ映画」だということだ。
 
私はこの4月から大学3年になり、周りからも進路の話などを聞くようになってきた。個人的にやりたいことはあるものの、それで稼げるかどうかはわからない。何かを見つけなければ、しなければという焦燥感にかられることもある。
 
そんな時、我らが安達が、映画の中でアドバイスを与えてくれた。黒沢に「なぜこんなに仕事を頑張るのか」と聞かれた安達は、「愛する人を守るため、会社に必要とされる人間になりたい」と答える。自分たちが同性カップルだと知られても理不尽な人事異動をされないように、自分と自分の大切な人を守るための人生を生きていこうとしている。なんだか、この打算のないシンプルな強い気持ちにとても心が動かされた。ごちゃごちゃ考えず、自分の気持ちに正直に生きていく勇気をもらった。
 

大切な人と幸せならば、それで良い

映画版では、BL作品につきものの〝カミングアウト〟場面も描かれている。親、家族、友達や同僚……ネタバレになるからあまり詳しく書けないが、今回の見どころは、何と言っても安達の成長ぶりだ。これも愛の力なのか、そんなことが言えるなんて、そんなこともできるようになって……と思わず妹? 姉? 母親?目線で感心してしまう。
 
不器用だけど、常に自分に正直で一生懸命な安達を見ていると、周りの目を気にするとか、始める前から不安になるとか、ネガティブになる必要はないと感じるのだ。「チェリまほ」は、自分と自分の大切な人が幸せならそれで良いと思わせてくれる、魔法の映画だった。
 
私はこのスーパーポジティブ映画を、ぜひ私と同年代の人たちに見てほしいと思っている。同年代には、人間関係、仕事のこと、将来のことなど悩み事が尽きない人が多いだろうが、そんな人たちに生き方のヒントを与えてくれるような作品だと私は感じた。
 
どうか、全国の腐女子の人も、腐女子ではない人も、この映画の魔法にかかって幸せになれますように。そして、BL沼に片足突っ込んでくれますように。

毎日デジタル:映画「チェリまほ」の赤楚衛二さん すれ違いに使える〝魔法〟は?
 

ライター
青山波月

青山波月

あおやま・ なつ 2001年9月4日埼玉県生まれ。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業。
埼玉県立芸術総合高等学校舞台芸術科を卒業後、大学で映画・演劇・舞踊などを通して心理に及ぼす芸術表現について学んだ。
高校3年〜大学1年の間、フジテレビ「ワイドナショー」に10代代表のコメンテーター「ワイドナティーン」として出演。
21年より22年までガールズユニット「Merci Merci」として活動。
好きな映画作品は「溺れるナイフ」(山戸結希監督)「春の雪』(行定勲監督)「トワイライト~初恋~」(キャサリン・ハードウィック監督)
特技は、韓国語、日本舞踊、17年間続けているクラシックバレエ。
趣味はゾンビ映画観賞、韓国ドラマ観賞。