由宇子の天秤 ©️2020 映画工房春組 合同会社

由宇子の天秤 ©️2020 映画工房春組 合同会社

2021.9.16

由宇子の天秤 揺らぐ真実、正義の危うさ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

由宇子(瀧内公美)はドキュメンタリーの若手監督だ。ある地方都市で起こった女子高校生いじめ自殺事件を取材中の彼女は、テレビ局からの修正要求に反発しながら真相に肉薄していく。そんな折、父親の政志(光石研)が経営する学習塾で問題が発生。映像作家として自らの正義を貫いてきた由宇子は、重大な選択を迫られる。

ベルリン国際映画祭パノラマ部門などに出品された春本雄二郎監督の長編第2作。ドキュメンタリー制作の内幕を通して現代社会や人間の闇に切り込み、〝真実〟の不確かさや〝正義〟の危うさをあぶり出す。そんな骨太のテーマに加え、予測不能の脚本とスリリングな描写力が際立つ快作である。

取材対象に寄り添う由宇子は、不幸な塾生の少女、萌(河合優実)にも優しく接し、常に誠実であろうとする。しかし人間は弱い生き物で、物事を都合よくねじ曲げ、うそをつくこともある。あらゆる登場人物が微妙な均衡の状況に揺らいでいるサスペンスの濃密さ。そして本作は全編が由宇子の視点で進行するが、衝撃的なラストで視点が切り替わる。すべてを目撃した観客への挑発的な問いがそこにある。2時間32分。東京・ユーロスペース、大阪・テアトル梅田(10月1日から)ほか。(諭)