「ディパーテッド」の一場面 © 2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

「ディパーテッド」の一場面 © 2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

2022.8.23

俳優生活35年 ブラッド・ピットの衰えぬ魅力:プロデューサーワークの軌跡から見えてくるもの

俳優デビューから35年、トップスターであり続けるブラッド・ピット。最新主演作「ブレット・トレイン」の公開に合わせ、その変わらぬ魅力を徹底分析。映画人としてのキャリアの変遷、切り口ごとのオススメ作品、人柄を感じさせるエピソードと、多面的に迫ります。

よしひろまさみち

よしひろまさみち

1990年代から令和の今、ハリウッドのA級スター俳優として君臨するブラッド・ピットは、プロデューサーとしての手腕もA級だ。製作会社プランBエンターテインメント(以下プランB)は、2002年に彼とブラッド・グレイ(この後、05~17年パラマウント・ピクチャーズの会長兼CEOを務めた)、そして当時の彼の妻だったジェニファー・アニストンによって設立され、その直後からヒット作を連発したことで注目を浴びた。
 

出演作でなくともヒットさせているプロデュース作品の傾向とは

 
彼のように主役級の俳優が作品をプロデュースすること自体、ハリウッドでは珍しいことではない。ジョージ・クルーニーやレオナルド・ディカプリオ、最近ではマーゴット・ロビーなど、自分で作りたい企画を実現するために自らの出演作でプロデューサーも務めるというケースは当たり前のことになっている。
 
だが、ブラッド・ピットの場合、自身の出演作でなくても、ブランド力のあるプランB製作で商業的にも成功させるすべを持つ。映画という映画、片っ端から見ることで知られている彼がプロデュースを担うやいなや、自分のスターバリューを理解した上で作品を仕上げてくるのだ。
 
彼がプロデュースした作品にはいくつかの傾向がある。オスカー狙いの大作、ベストセラー原作もの、無名を有名に変えるチャレンジ作、自身が出演することでマネーメイクする作品、そしてダイバーシティーだ。
 

「それでも夜は明ける」
 (C) 2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. All Rights Reserved.

プランBのブランド力を高め、オスカー戦線にも参戦

 
まずオスカー狙いの大作。プランBの設立直後のタイミングから「ディパーテッド」(06年)を大成功に導き、これによってプランBのブランド力が一気に高まったのは有名な話。その後、「それでも夜は明ける」(13年)「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(15年)「ムーンライト」(16年)「バイス」(18年)と、オスカー主要部門で戦える作品を手掛けてきた。その手の作品は、興収狙いのビッグムービーというよりも、アートハウス寄りというのが常だが、これらの作品は興行的にも成功しているのが特徴といえるだろう。
 

「食べて、祈って、恋をして」
(C) 2010 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. 

ベストセラー小説の映画化でもセンスを発揮

 
次にベストセラー原作もの。原作小説の出版前から映画化権を取得していた「きみがぼくを見つけた日」(09年)や、10年時点で全世界累計700万部を売り上げた大ヒットエッセーの映画化「食べて、祈って、恋をして」(10年)など、じつに目のつけどころがいい。
 
これら原作はベストセラーだが、いわゆる有名作家の作品ではないのだ。作家の名前を借りてヒットに導くタイプの映画ではなく、時代の波に乗ってヒットした原作本を、「これを読んだら映像で見たいでしょ?」とファン心理をついた映像化を実現している。
 
その点では「ワールド・ウォーZ」(13年)や「ウォー・マシーン:戦争は話術だ!」(17年)も当てはまる。が、これらはさらなる本気度がうかがえる作品だ。というのも、彼はエグゼクティブ・プロデューサーではなく、いちプロデューサーとして関わる一方、自身が主演を務めた作品だから。
 
前者は世界的大パニックの回想録風だった原作を、パニックそのものを描いたアクション映画。後者は戦争ノンフィクションを、フィクションに落とし込んだ風刺映画。どちらも主演を誰がやるかによっては、批判を浴びかねない解釈をしている問題作だ。
 
だが、ブラッド・ピットというA級スターが主演することによって、問題作が「ブラピ主演作」の看板に早変わり。彼はこの効果を理解してやっているとしか思えないし、実際いずれもベストなタイミングでリリースして大成功している。タイミング、作品力、スターバリューなど、彼が全てにおいてプロデュースできる裏方根性を感じられるはず。



「ミナリ」
(C) 2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

映画の役割を理解し、情勢を見極め、チャレンジを続ける

 
また、社会の変動を映すのも映画の役目。プロデューサーの彼はその役割も考えている。それが如実に表れているのが、「オクジャ okja」(17年)、「ミナリ」(20年)だ。前者は当時、欧州・南米に続きアジアに進出しシェアを伸ばしつつあったNetflixのオリジナル作品。そのタイミングと先見性もさることながら、韓国・アメリカの合作に踏み切ったことも特筆すべきことだ。
 
この作品によって、その後オスカー獲得によって世界的巨匠となるポン・ジュノの名を広めるきっかけとなったのだから。そのころのポン・ジュノはカンヌをはじめとする欧州の映画祭では知らぬ者なしの有名監督だったが、北米ではまだまだ。彼に目をつけただけでなく、現在隆盛を極める韓国エンタメを先取りしたともいえる。
 
後者はアートハウス系の製作・配給で勢いを増していたA24とのタッグ。おまけに、コリアン・アメリカン1世の苦労話を、コロナ禍によるアジアン・ヘイトが吹き荒れる中リリースするという、神がかったタイミングも実現。多様性の象徴ともいえる「映画」を通じて、ダイバーシティーとインクルージョンを訴えることに成功している。
 

「アド・アストラ」
 (C) 2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

これからの人材を積極的にバックアップする目利きの面も

 
そして最後に才能の育成について。「キック・アス」(10年)のマシュー・ボーンや「ビール・ストリートの恋人たち」(18年)のバリー・ジェンキンス、「アド・アストラ」(19年)のジェームズ・グレイなど、それまで一部映画ファンには知られていたが代表作を欠く、なかなか芽が出ない監督を積極的にバックアップしているのだ。
 
これはひとえにブラッド・ピット自身がシネフィルであることが功を奏したといえる。彼は映画を見ていないときはないというほどの映画好き。だからこそ、もう一息の彼らを業界のトップに押し上げるため、プランBのブランド力とブラッド・ピットのスターバリューを活用しているのだ。
 
ブラッド・ピットによるプロデュース。それは、自身の出演作のプロデュースにとどまらず、多様な人たちがいきいきと活躍する「映画界」をも活性化させるきっかけを作っているといえるだろう。



<画像を使用した作品一覧>

●ディパーテッド
ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント


●それでも夜は明ける
ブルーレイ:¥2,200(税込)
DVD:¥1,257(税込)
発売・販売元:ギャガ


●食べて、祈って、恋をして
価格:¥2,381+税
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント


●ミナリ
ブルーレイ:¥5,280(税込)
DVD:¥4,180(税込)
発売・販売元:ギャガ


●アド・アストラ
ブルーレイ発売中/デジタル配信中(購入/レンタル)
発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン

ライター
よしひろまさみち

よしひろまさみち

よしひろ・まさみち 映画ライター。雑誌、新聞、webなどの媒体で洋画を中心に、取材・執筆。テレビ、ラジオなどでの映画紹介も担当する。