c2021 Studio AYA

c2021 Studio AYA

2021.3.04

時代の目:きこえなかったあの日 10年の軌跡、少しずつ進む

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

東日本大震災から10年。地震直後からたくさんのドキュメンタリー作品が作られ続け、今なお語られるべき物語がある。「きこえなかったあの日」では、自身も聴覚障害を持つ今村彩子監督が、宮城県の被災地のろう者を訪ね歩く。今村監督はろう者の視点に立ったドキュメンタリーを手がけてきた。被災地にも通い、同じ人たちにカメラを向けて、これまでも「架け橋 きこえなかった3・11」(2013年)などの作品として発表。今作はコロナ禍に覆われるまでの10年間をまとめ、さらに16年の熊本地震、18年の西日本豪雨の被災地での取材も織り込んだ。

映画は多数派の視界からこぼれがちな人々の不安、今なお続く苦労を映し出す。意思疎通の難しい人々を取り巻く社会環境は、まだまだ厳しい。一方で熊本には福祉避難所が作られ、広島にはボランティアとして働くろう者がいた。手話言語条例が各地で施行されるなど、10年で社会は少しずつでも変わってきた。監督自身の固定観念が揺らぐ場面もあり、映画は「障害者」「被災者」を超え、個性豊かな人間たちの生活と人生の軌跡となっている。1時間56分。東京・新宿K's cinemaで公開中。大阪・第七芸術劇場(4月17日から)など順次全国で。(勝)