ジャネット © 3B Productions

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2021.12.09

時代の目:「ジャネット」「ジャンヌ」 斬新な聖女、音楽に乗せ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

フランスの国民劇のヒロイン、ジャンヌ・ダルクの生涯を切り取った2部作。「フランドル」など社会や人間を挑発するブリュノ・デュモン監督が新たな視座と実験性をまといながら、斬新極まりない感性で現代に投じた野心作だ。

15世紀前半、仏英による百年戦争の時代。「ジャネット」は小さな村で暮らすジャネット(ジャンヌの幼少期の呼び名)が神の声を聞く体験をし、フランスを救うため戦いに旅立つまで。戦争や平和、愛国心や信仰、アイデンティティーをミュージカルに乗せて大胆に表現。ヘビメタやポップソング、ヘッドバンキングなども一体化した前衛的な世界を創出する。

「ジャンヌ」では異端審問と火刑に処されるまでを描く。教会による支配や抑圧、それに屈しないジャンヌとの白熱の議論と沈黙は言葉と強い意思が生み出すアクションのような緊迫感だ。2作とも豊潤な言葉と音楽の洪水に身を置く幸福感は圧巻。歴史劇を見る感覚は次第に消え、悲嘆と固執、反ばくなど多彩な感情がさく裂する世界と、時代や国境を超えた信念と思想が突き刺さってくる。「ジャネット」1時間52分、「ジャンヌ」2時間18分。東京・ユーロスペース(11日から)、大阪・シネ・ヌーヴォ(来年2月12日から)。(鈴)

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