毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2023.2.10
チャートの裏側:豊川演じる梅安に期待
都内のシネコンが、ほぼ満席だった。「仕掛人・藤枝梅安」だ。公開3日目の日曜日の午後1時台とはいえ、これはちょっとした驚きである。当然ながら、年配者が多かった。そのなかで目についたのが男女2人のペア客だった。上映前から、妙なうれしさが湧き上がってきた。
梅安は、ドラマや映画で何人もの名優が演じている。なかでも、すぐにイメージされるのが緒形拳だ。緒形が演じる梅安は好色度が抜きんでていた。その印象が強烈過ぎた。新作の梅安は豊川悦司が演じる。代々の坊主頭、好色さも発揮する。ただ、緒形とは雰囲気が違う。
本作は、いくつかの因縁話が、仕掛人や標的になる人物らの間で複雑にからみ合う。その複雑さが、梅安の内面にかなり踏み込んでいくのだ。内面描写は、梅安に「女は嫌いだ」とまで言わしめる。好色の意味が全く変わってくる。相棒の彦さんとの親密ぶりが意味深に見える。
シビアな興行の話に移る。都心と比べて、地方の成績がもう少しだと聞き、「えーっ」と思った。冒頭のにぎわいから、てっきり地方も同様と踏んでいた。一つ感じたのが、地方の方々に本作はどこまで届いていたか。このことである。文章が池波正太郎風になってきたが、それはともかく、今後の展開は期待できる。それだけの作品である。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)