前科者  ©2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

前科者 ©2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

2022.1.27

この1本:前科者 弱き者、希望の在りか

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)。

保護司とは、犯罪者の更生を助ける非常勤の国家公務員だ。無報酬で尊い使命を担うこの仕事に光を当てた本作は、テレビドラマに続く同名漫画の映像化だが、単独で見ても問題ない。「あゝ、荒野」の岸善幸監督が原作にないオリジナルストーリーを書き、胸に刺さる好編に仕上げた。

保護司3年目の阿川佳代(有村架純)はコンビニで働きながら、更生を目指す前科者たちに厳しくも優しく接していた。寡黙な元殺人犯の工藤(森田剛)とも信頼関係を築いていたが、最後の面談の日に工藤が失踪。阿川の同級生だった刑事の滝本(磯村勇斗)が追う連続殺人事件の容疑者として工藤が浮上し……。

更生を誓っていた工藤がなぜ犯罪に関わったのかというミステリーを縦軸に、若き熱血保護司の挫折と苦悩を映し出す。悲惨な生い立ちを引きずる工藤は、出所後も世間になじめず孤立感を抱えている。一方、「殺人犯でも更生できる」と信じ、保護観察に全力で取り組んできた阿川は、無力感に打ちひしがれる。

一度罪を犯した者は人生をやり直せないのか。生きづらさが充満した社会の希望はどこにあるのか。そんな問いかけをはらむ本作は、阿川が保護司を志したきっかけなどの多彩なエピソードが有機的に結びつき、独自の人間観を提示する。人間はどうしようもなく弱い存在だ。しかし強くなれなくとも、生きる価値はある。つらくなれば誰かを頼ればいいんだ、と。牛丼やラーメンをめぐるやりとりでほろりと涙を誘う場面は、昭和の人情話のように湿っぽいが、俳優たちの切実な感情の発露をまっすぐ見つめた映画の素朴なまなざしに心打たれる。

そして、本作は「言葉の力」を信じた作品でもある。自信喪失した阿川に、元受刑者で友人のみどり(石橋静河)が語りかける言葉がすごい。そのしびれる名セリフ、聞き逃しなきように。2時間13分。東京・TOHOシネマズ日本橋、大阪・あべのアポロシネマほか。(諭)

ここに注目

骨太なドラマである。一人一人のキャラクター造形に説得力がある。それを支えているのは有村と森田だが、マキタスポーツ、石橋、リリー・フランキー、木村多江ら脇役陣が短い出番にもかかわらず圧倒的な存在感で物語に息づいている。演技やセリフというよりも、有村らと対峙(たいじ)し、そこから醸し出す緊密な空気感が映画全体の力になり作品をけん引する。世間の偏見やどうにもならない人の業があふれる社会でどう生きていけばいいのか。不寛容と排他が進む現代で更生の意味、何が必要かを問うエンターテインメントだ。(鈴)

技あり

夏海光造撮影監督は、大方の撮影監督が避けたがる、ペタっとした平面や障子、白壁を後景にすることをいとわない。工藤が行方不明になり、沈んでいる阿川の仕事場を、みどりが訪ねた場面。コンビニ前の車止めに並んで座り、後景は店内の広告の裏側と壁。役人らが世間を代表する面をして「反省しろ」という中、みどりは阿川に会ってほっとして、「やめちゃダメ」と励ます。こういう芝居で後景を凝ったら邪魔だ。阿川と滝本が再会するシーンは、後景をほとんど飛ばして白い。思い切りのいい描き方で、この特異な話をまとめた。(渡)