きし よしゆき
1964年3月25日 生まれ
映画監督、テレビプロデューサー「二重生活」(2016年)「あゝ、荒野 前篇・後編」(2017年)「前科者」(2022年)
「〝普通〟って、なに」。映画を見ながら、思わずつぶやいてしまった。「正欲」の登場人物は、あるものに性的興奮を覚える特殊な指向を持っている。「正しい」欲とはなんなのだろうかと考えさせられ、社会を見る目が少し変わってしまった。 アレルギー持ちで「特別扱い」されていた 突然だが、私は魚や卵、牛乳にアレルギーがある。昔は今のようにアレルギーがあまり理解されておらず、幼稚園を渡り歩いたし、小学校では母のお弁当を毎日持参していた。「田野くんだけ弁当でいいね」とよく言われ、修学旅行でも同じ班の級友の親が「子どもたちの旅行がどうなるのか」と訴えてきた。「特別扱い」の子どもだった。 成長...
田野皓大
2023.11.14
広島のショッピングモールで働きながら鬱屈した日々を送る夏月(新垣結衣)と、彼女の中学時代の同級生、佳道(磯村勇斗)。大学のダンスサークルでひときわ輝く大也(佐藤寛太)と、彼に引かれる八重子(東野絢香)。他人には言えない秘密を抱えた4人と、息子の不登校に悩む横浜在住の検事、寺井(稲垣吾郎)の人生が思いがけない形で交錯していく。朝井リョウの同名小説の映画化だ。 テーマは今どきはやりの〝多様性〟だが、ポリコレ的正論を叫ぶ映画ではまったくない。特異な性的嗜好(しこう)やトラウマゆえに世界から孤立し、息を潜めるように本来の自分を覆い隠す人々の生きづらさをあぶり出す。フェティシズムの領域にも触れた実にき...
2023.11.10
第36回東京国際映画祭(10月23日~11月1日)は、アジア映画の勢いをひしひしと感じさせる結果となった。受賞作は、最高賞の東京グランプリに選ばれた中国映画「雪豹」をはじめ、アジア映画がずらり。経済成長に伴って実力をつけてきた地域が、映画界でも台頭している。「アジア重視」を掲げながら苦戦が続いてきた東京に、追い風が吹いてきたようだ。 コンペティション部門の主要6賞のうち、中国映画が2本、イラン、日本が1本ずつ。残りはジョージアと米国の合作だが、イラン人が主人公。審査委員長のビム・ベンダース監督は「偶然ではない」と断じた。審査では映画や作り手の国籍は考慮せず作品本位だったというが、終わってみ...
勝田友巳
2023.11.06
LGBTQといえば性的多様性。「正欲」はそんな単純な公式に揺さぶりをかける。岸善幸監督も「自分の理解の浅はかさ」に気づくところから、映画化に取り組んだ。朝井リョウの小説が原作だ。11月1日に閉幕した第36回東京国際映画祭で最優秀監督賞と観客賞を受賞。「世界に届いた」と喜んだ。 プロデューサーに勧められて小説を読み、「目からウロコ、衝撃だった」と振り返る。「『多様性』への理解の浅はかさに気づき、その意味を考えさせられた」。物語の登場人物の性的指向は、理解と想像を超えている。注目されるLGBTQは、マイノリティーの中でも多数派。そこからこぼれ落ちる人々の群像劇である。 〝普通〟に...
2023.11.02
第36回東京国際映画祭のクロージングセレモニーが1日、東京都内で開かれた。最優秀監督賞に「正欲」の岸善幸監督が決まった。また同作は観客賞にも選ばれた。最高賞にあたる東京グランプリは中国の「雪豹」(ペマ・ツェテン監督)に決まった。 「正欲」は、特殊な性的嗜好(しこう)を持つ登場人物の群像劇の中に、多様性の意味を問いかける作品。朝井リョウさんの同名小説を映画化した。岸監督は「すべての人が自由に、自分を偽らず生きられる社会を問いかけた。これからも作り続けたい」とあいさつした。 主な受賞は以下の通り。 審査委員特別賞「タタミ」▽最優秀女優賞ザル・アミール(「タタミ」)▽最優秀男優賞ヤスナ・ミ...
ひとシネマ編集部
2023.10.31
保護司とは、犯罪者の更生を助ける非常勤の国家公務員だ。無報酬で尊い使命を担うこの仕事に光を当てた本作は、テレビドラマに続く同名漫画の映像化だが、単独で見ても問題ない。「あゝ、荒野」の岸善幸監督が原作にないオリジナルストーリーを書き、胸に刺さる好編に仕上げた。 保護司3年目の阿川佳代(有村架純)はコンビニで働きながら、更生を目指す前科者たちに厳しくも優しく接していた。寡黙な元殺人犯の工藤(森田剛)とも信頼関係を築いていたが、最後の面談の日に工藤が失踪。阿川の同級生だった刑事の滝本(磯村勇斗)が追う連続殺人事件の容疑者として工藤が浮上し……。 更生を誓っていた工藤がなぜ犯罪に関わったのかという...
2022.1.27
楡周平の「サンセット・サンライズ」(講談社)を原作に、「あゝ、荒野」(2017年)や「正欲」(23年)の岸善幸が映画化。脚本を宮藤官九郎が手がけた。主演は、「あゝ、荒野」で⽇本アカデミー賞最優秀主演男優賞ほか数々の映画賞を受賞して以来、7 年ぶりに岸監督とタッグを組んだ菅⽥将暉が務める。 世界中が新型コロナウイルスのパンデミックでロックダウンに追い込まれた2020 年。東京の⼤企業に勤める釣り好きの晋作(菅⽥将暉)は、リモートワークが導入されたことを機に、海が近くて⼤好きな釣りが楽しめる三陸の町で見つけた4LDK・家賃6 万円の神物件で気楽な〝お試し移住〟をスタートする。仕事の合間には海へ通...
原作は、第34回柴田錬三郎賞を受賞した朝井リョウによる同名小説。監督は「あゝ、荒野」(2017年)や「前科者」(22年)の岸善幸、脚本を「宮本から君へ」(19年)や「とんび」(22年)、「アナログ」(23年)の公開も控える港岳彦、出演者に稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香を迎え映画化された。 不登校の息子が世間から断絶されることを恐れる検事の啓喜(稲垣吾郎)。ある秘密を抱え、自ら世間との断絶を望む寝具販売員の夏月(新垣結衣)。夏月の中学の同級生で、夏月と秘密を共有する佳道(磯村勇斗)。心を誰にも開かずに日々を過ごす大学生・大也(佐藤寛太)。大也への自分の気持ちに戸惑いながらも心...