「シティーハンター」© 2024 Netflix, Inc.

「シティーハンター」© 2024 Netflix, Inc.

2024.5.15

〝もっこり〟健在でもセクハラ封印 鈴木亮平版「シティーハンター」はアップデートされたか 40代リアルタイムファンの記者が解説

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

ひとしねま

屋代尚則

Netflixで独占配信中の実写映画「シティーハンター」の勢いが止まらない。配信開始から2週間以上すぎた5月中旬の時点でも、Netflix「今日の映画TOP10」(日本国内のランキング)の1位にランクインしたほどの大ヒットぶりだ。昭和の時代、「週刊少年ジャンプ」に連載された漫画やテレビアニメが人気だったが、今作は現代の東京に舞台を変更。往年のファンが楽しんでいるのはもちろん、動画配信サービスには若年層のユーザーが多く、漫画やアニメにリアルタイムで触れていない10~20代の層にも刺さっているようだ。幼い頃にアニメを繰り返し見てきた40代の筆者が、「令和版」オリジナルの設定の注目ポイントを紹介する。 
(以下、本編の内容に触れています)


令和を感じさせる場面ふんだんに

はや本編から話はそれるが、テレビで鈴木亮平が配達員にふんして「ウーバーイーツで~す! ヤンニョムチキン、頼まれた方~?」と大声を出すCMを、見たことがある方も多いはず。今やおなじみのフードデリバリーサービスだが、CMによく似た場面というより、同じ撮影現場で収録したはずの場面が、映画「シティーハンター」にも登場する。
 
鈴木が今作で演じるのは、主人公の冴羽獠(さえば・りょう)。新宿・歌舞伎町を拠点に、裏社会のトラブル処理を請け負う超一流のスイーパー(始末屋)だ。映画の中で、冴羽は敵のアジトに身を隠して侵入。ほどなくして敵の一団に見つかってしまうが、冴羽は突如、「ウーバーイーツで~す!」と声をあげ、笑ってごまかそうとする。もちろん敵には通じず、一斉に銃口を向けられ、迫真の戦闘シーンが始まるのだが……。

昭和の時代にウーバーイーツはなかったので、上記のシーンはもちろん今作独自の設定。視聴者に「今」の時代を強く意識させる描写だが、それだけでなく、今作には現代が舞台だと感じさせる場面があちこちに出てくる。


ウーバーイーツ、歌舞伎町、オッペンハイマー……

今作でビックリしたのは、新宿・歌舞伎町の光景が「本物」に限りなく近い点。JR新宿駅東口を出て「ドン・キホーテ」や「クスリの龍生堂」の看板(新宿に足を運ぶ人ならおなじみのはず)のそば、真っ赤な電飾でおなじみ「歌舞伎町一番街」のゲートをくぐると、そこには「今」の歌舞伎町がある(筆者は頻繁に出入りしていないが……)。例えば、人気のホストが大写しになったホストクラブの巨大看板のほか、高校生のような格好をした女性が「ガールズバー、どうですか?」と呼び込みをかける風景。おそらくきょうの夜も、そんな光景が歌舞伎町で繰り広げられている。

今や歌舞伎町の「シンボル」かもしれない、シネコン「TOHOシネマズ新宿」のビルも登場。明示されてはいないが、人気の米映画「オッペンハイマー」の主人公を思わせる看板もある。どうやら「シティーハンター」の世界でも「オッペンハイマー」は絶賛上映中(?)らしい。また、現実の東京の街でしばしば耳にする、大型トラックが大音量で流すあの「高収入の求人」の歌も再現。今の歌舞伎町を歩いたら、飲み明かしている冴羽に会えるんじゃないか……。そんな気さえしてくるリアリティーだ。

風景だけではない。ニュースでも話題になった、歌舞伎町の路地裏に集まる若者の集団「トー横キッズ」を思わせる描写も。冴羽が行方を追う女性、くるみ(華村あすか)は、歌舞伎町のかいわいにたむろしていたが、謎の組織に捕まって薬品を注射され、命からがら魔の手から逃れてきた……という設定。また、くるみはSNS(ネット交流サービス)で人気沸騰中のコスプレーヤーで、冴羽はコスプレイベントの会場にくるみの護衛に出向き、敵と戦う羽目になるというのも、現代版ならではの舞台設定だ。


ゾンビ人気にも目配り?

ちなみにNetflixでは、実写映画だけでなく、日本テレビ系で1987~88年に放送したアニメシリーズ「シティーハンター」(全51話)も配信中。アニメ版と実写映画版では同じく、元警察官で冴羽の相棒、槇村秀幸(実写版は安藤政信)が作中で絶命するが、その経緯は両作で違っている。実写版では、前述の謎の薬品のせいで血管が不自然に浮き出し、凶暴化した人間に、槇村は刺し殺される。近年は「アイアムアヒーロー」「新感染 ファイナル・エクスプレス」など、国内外の実写ゾンビ映画が人気。そんな雰囲気の描写を入れるのは、多少なりとも製作陣の頭にあったのだろうか。

また、アニメの冴羽も鈴木亮平が演じる冴羽も、股間が膨らむという意味の「もっこり」をやたら口にし、若くてきれいな女性に目がない。ただ映画版の冴羽は、女性の体に自ら触れるようなまねはほとんどせず、今の世の中に適応した、それなりに「健全」な人物になっている。冴羽ではないが、刑事の野上冴子(木村文乃)が上司に「やだ~、(その発言は)パワハラですか?」と口にする場面も。「パワハラ」以上に「セクハラ」の場面が多かったアニメとは大違いの「現代的な」空間が、映画版の世界にはある。


変わらない「Get Wild」

上記のように、設定はところどころで変わっているが、変わらないものもある。映画版の冒頭で、新宿の街に掲げられた黒板の「伝言板」が登場。令和の時代に伝言板で連絡を取る人がいるのかはともかく、冴羽はこの伝言板にチョークで「XYZ 連絡して……」などと書かれた依頼をもとに、仕事を請け負う。ちなみに、アニメでは「XYZ」は「もう後がない」(ので、冴羽に仕事を頼みたい)の意味だと説明されている。

そして「シティーハンター」といえば、今でも街中で耳にするTM NETWORKの名曲「Get Wild」。往年のファンの皆さんはご安心を……というべきか、映画版のエンディングでは、TM NETWORKの曲「Get Wild Continual」が流れる。もちろん、あの懐かしの歌詞の通りだ。

歌詞の中には、こんな一節がある。「Get chance and luck ひとりでも 傷ついた夢をとりもどすよ……」。アニメの頃からの「シティーハンター」ファンの皆さんは、社会で数十年の時を経て、人生の酸いも甘いも味わってきたはず。今作を見て「傷ついた」経験も思い出しつつ、明日に向けてちょっとでも元気になれる。「シティーハンター」はそんな作品かもしれない。

Netflix映画「シティーハンター」は独占配信中

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ライター
ひとしねま

屋代尚則

やしろ・ひさのり 毎日新聞学芸部記者。1979年生まれ。2002年入社。学芸部でテレビ番組など放送分野の取材を担当。ネット配信のコンテンツに関する記事も手がける。