三度目の、正直

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2022.1.27

特選掘り出し!:「三度目の、正直」 常識を突き崩す一撃

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

春(川村りら)はパートナー、宗一朗の連れ子が家を出て、喪失感にとらわれる。里親になりたいと相談すると、反対されるばかりか好きな人ができたと告げられた。ある時倒れていた記憶喪失の青年を連れ帰り、流産した子に付けるはずだった名前、生人(なると)と呼んで一緒に暮らすと宣言する。弟の毅や母親、本人の反対すら押し切って、春は母親代わりとなる。

人物造形が独特だ。みな身勝手。でも物分かりがよい。ワガママだが他者は尊重する個人主義。一方的に母親を演じる春、突然現れて生人の父親と名乗る男。ラッパーを夢みる毅は、妻の美香子の支援を当然と考えているようだし、美香子は本音を語らないまま精神のバランスを崩してゆく。ショットはぶつ切りのように重ねられ、俳優の演技も感情を表さない。視線は交錯せず、すれ違いとズレが増幅してゆく。ゆがんだ関係性は、遠近感の狂った絵画を見るようで、時にいらだたしい。

濱口竜介監督の「ハッピーアワー」に参加した野原位(ただし)監督のデビュー作。ゴツゴツした手触りは心地よいとは言えないが、常識を突き崩す一撃は強烈だ。1時間52分。東京・シアター・イメージフォーラムほか。大阪・シネ・ヌーヴォ(4月2日から)など全国でも。(勝)

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